〈不治の病・其の二〉-4
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亜矢は悪夢にうなされていた。
ガリガリに痩せたオヤジ達の集団に追い掛けられ、衣服を掴まれてビリビリに破られていく。
近付くオヤジ達を、片っ端から思い切り殴りつけているはずなのに、まるで怯む様子もなく、遂に手も足も押さえ付けられてしまった。
ニヤニヤと笑うオヤジ達……と、その顔がグニャグニャに歪んでいき、その顔そのものが男根の形へと変わり、亀頭を思わせる頭頂部を亜矢の性器に突き刺した。
「……ハァッ…ハァッ…ハァッ……」
悪夢から目覚めた瞳には、相変わらず仏頂面をした婦長と、怪訝そうな表情をした院長が映し出された。
そして自分の腕には点滴がうたれ、チューブが繋がれていた。
『……ビックリしたわ。あんな所に倒れてたから』
昨夜、何が起きたのか知らないのか、婦長はまるで見当違いな台詞を吐き、溜め息をついた。
「……わ、私……ナースコール押したのに…なんで誰も来てくれなかったんですか?……助けに……うぅ……」
亜矢の脳裏には、鮮明に昨夜の《地獄》が焼き付けられてしまっていた。
ナースコールには誰も出ず、深夜巡回にも誰も来ない。
見捨てられた状況の中で、綺麗だった身体は汚され、下半身は玩具同然な扱い方をされ、腹が膨れるほどに精液を注入させられたのだ。
悔しくて悲しくて……亜矢は声を押し殺す事もせずに泣いた……。
『……あのナースコールは断線してたみたい。深夜巡回も手違いがあって、あなた一人で一晩見てると皆が思ってたのよ』
亜矢の心の傷を労るそぶりすらなく、婦長は淡々と答えた。
「……私……ヒック…黙ってませんから…ヒック……訴えますからね……」
あまりにも他人事な婦長の態度に、亜矢は発散することの出来なかった怒りを婦長にぶつけ、爛々と瞳を燃え上がらせて睨んだ。
それでも婦長の表情は変わる事はなく、据わった目のままで亜矢を見下ろしていた。
『坂口さん、気持ちは分かるが騒ぎを大きくするのはやめてくれないか?』
取って付けた様な沈痛な表情を作った院長が、宥めるように亜矢に語りかけた。
『こんな田舎でそんな騒ぎを起こされたら、本当に誰もこの病院を使ってくれなくなる……そんな事になったら、ここで働いてる看護師やスタッフ達はどうなる?』
「……し、知りません!……じゃあ私に泣き寝入りしろって事ですか?」
院長の台詞もまた、亜矢の事など考えてもいない、冷た過ぎるものだった。
涙が息を吹き返したように溢れ出し、頬をつたって落ちていく。
刻み付けられた涙の跡に、新たな滴が流れていく。