〈不治の病・其の二〉-3
思えば、院長の人生は順風満帆と言えた。
幼少の頃から頭脳は明晰。学力は常にトップを飾り、すんなりと医学大学も卒業出来た。
容姿も別段劣るわけでもなく、成績優秀なこの男を、女子が放っておく事もなかった。
医師としての腕は抜群。
仕事は順調だったし、女子には不自由など感じない。仲間の医師達からは〈教授〉のニックネームを与えられ、患者達からは〈大先生〉と持ち上げられる。
そして、田舎ではあるが病院の院長の座を手に入れ、人生の曲がり角を過ぎた時には、新しい市の市長の称号までも手に入れた。
人生において自尊心は一度として傷付けられた事はなく、それは肥大していく一方。
捩曲がった自尊心は我欲の塊と化し、市長と院長の肩書は、自分がこの市の支配者であるかのような錯覚を起こさせていた。
『市民に生活を“させている”のが市長』
『市民を病から“救ってやる”のが病院。そのトップが院長』
本来の職責を履き違え、思い上がったこの男には、もはや市民は自分の私欲を満足させる為の道具でしかなかった。
周りをイエスマンで固め、耳に心地好い言葉しか受け入れず、我が儘放題な振る舞いにも気付く事はない。
『その患者はいつ来るんだ?何時でも受け入れてやるぞ』
『へへ…そう来ると思ってましたよぉ。あと2〜3日もすれば来ますよ。撮影スタッフも一緒にね』
二人の利害は一致した。
院長にすれば、その撮影スタッフ達からも入院料金は取れるわけだし、更にDVDが売れれば追加で金が手に入る。
患者からしても、これからもナースに性暴力を加えて遊べるし、おこぼれでも金を貰える手筈になっていた。
どこにもマイナス要素は無いのだ。
『そいつらが来るまで亜矢で遊ぶんだろ?今日も家には帰さないようにするから。夜になったら好きにしてイイぞ』
『気を遣わせて申し訳ないね。じゃあ遠慮なく』
オヤジは少し浮かれたような足取りで部屋を後にし、一人となった院長は、デスクの上にある電話から受話器を取り、何処かに電話をした。
『……あぁ、私だ。君の所にいる石田さんだっけ?あの娘って優秀らしいじゃないか……』