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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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居場所-2




とりあえずタクシーを拾うために、飲み屋街を大通りへと向かう。


春とはいえ、この時間になると薄手のトレンチコート一枚ではまだ結構肌寒い。


陽気な酔っ払いたちの間をすり抜けて歩いていると、こみあげる孤独感に押し潰されそうになる。


神戸支社にいた頃は、何の屈託もなく、みんなと飲んで騒いで唄うことが単純に楽しかった。


先約があるからと誘いを断っても、「天野ちゃんが来ないとはじまらないよ!乾杯だけでも付き合って!」などと言われて強引に引っ張られるのが、迷惑でもあり、嬉しくもあった。


あの頃の同僚や先輩たちは、もうみんなバラバラになってしまった。


女性社員はほとんどが結婚して辞めていったし、男性社員はめいめいそれなりの部署に移動してキャリアを積み、順調に出世している。


私のように特殊なプロジェクトチームばかりを渡り歩いてきたシステム職人のような社員は、社内でも珍しいタイプといえるだろう。


仕事は人一倍熱心にやってきたし、誰にも負けない自信はある。


――――にも関わらず、会社での私の居場所はどんどん狭くなっているような気がして、無性に息苦しい。


一輝の人事異動があってからというもの、こんなふうに感じてしまうことが明らかに以前より多くなった。


まるで彼という存在に、今まで築き上げてきたものの全てが激しく揺さぶられているようで怖かった。


「……一輝の、バカ……」


無意識のうちにそう呟いた途端、後ろからポンと肩を抱かれた。



「―――誰、がバカだって?」


驚いて振り返ると、そこには当の北原一輝本人が、ニコニコと屈託のない微笑みを浮かべて立っていた。


「―――え?……ええっ?……の…飲み会はっ?」


「―――うん。抜けて来た」


「……は?……はぁっ?!」



一輝は、驚き呆れる私の横をすり抜け、さっさと大通りに出て素早くタクシーを停めると、こちらに向かって大きく手招きをした。


「祐希!早く!」


「……えっ?……あの……」


わけがわからないまま、引き寄せられるようにフラフラと足が動いてしまう。


「あ……あのっ……」


「とりあえず―――場所変えて、飲み直そう」


一輝は戸惑う私の手をつかみ、当たり前のようにタクシーの中へと引っ張り込んだ。


余りにも手際がよくて逆らう隙さえないまま、もう車は走り出していた。


「……ちょっと……こんな風に課長が抜けちゃマズいって!そうでなくても誤解されかけてるのに……」


「―――誤解?」


「……だから……私と……課長が……」


タクシーの運転手が、バックミラー越しにちらっと私たちを見たような気がして、先の言葉をぐっと呑み込んだ。


「………クスッ」


うろたえる私を鼻で笑いながら、繋いだままの手をしっかりと握り直してくる一輝。


大きくて温かい手のひらが、私の指全体を強く抱き締めるようにきゅっと包み込む。


手をつないだだけ。


それだけのことなのに、心臓がバクバク弾んで破裂しそうだ。


意識的に目を背けている感情にごまかしがきかなくなりそうで、たまらなく怖かった。



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