コロとカノジョの1日目-3
「ほんとはシャンプーとかもちゃんとしてあげたいんですけど、スペース的に…あ、一緒にシャワー浴びながらだったら洗えますけどどうしますか?なんなら頭だけじゃなくて身体じゅ…」
「却下。ねぇ西島このあと何か予定あるの?」
毎度お馴染み速攻却下に若干悲しそうな顔。
「悲しいことにまったくないですよ」
「じゃぁ、買い物付き合って。腕時計とこの髪型に似合う服を買いたいの」
「喜んでっ」
一瞬で尻尾全力で振ってるし。いいなぁ、この笑顔。
「一旦家に帰って着替えてもいいかな?」
「もちろん」
それから支度をして西島の部屋をあとにする。車で家まで送ってくれた。上がってお茶でも飲んで待っててと言ったけれど、洗車してくるから支度が終わったら連絡くださいと笑う。そこで初めてお互いの私用携帯の連絡先を知らないことに気がついて慌てて交換する。急がなくていいという西島の言葉に甘えて、シャワーを浴びた。軽くなった髪は洗うのも乾かすのもラクで。ニットにデニムのスカートならそう違和感ないかな。メイクも終えて教えてもらったばかりの西島の携帯に電話する。なんだかそんな些細なことさえドキドキしているのは、相当西島にハマっている証拠だろうか。
「早かったですね。もっとゆっくりでも大丈夫だったのに」
「待たせたら悪いじゃない」
「あ、もしかして早くオレに会いたかったとか?」
「うん。ダメだった?…ってアンタ、何真っ赤になってんの?自分が言ったんじゃないっ」
つられてこっちまで真っ赤になる。
「いや、絶対『違う』って返ってくると思ったから…」
「わ、悪かったわね。まぁ確かに髪切ってもらったからかなり時間短縮にはなったと思うけど」
ふわっと頭の上に西島の大きな手が乗せられる。
「な、何よ?」
「いや、可愛いなぁって思って。車の中じゃなきゃ今すぐ押し倒したい…うわっ」
全くムードも何もないヤツめ。一言余計なんだから、もうっ。おもわず裏拳食らわしちゃったじゃない。でもこの会話がきっかけになって車内の空気はいつも通り。くだらない話も軽い下ネタもごちゃまぜにして車は郊外のショッピングモールへと向かう。そのほうが職場の人間に遭遇する確率が低いだろうと予測して。別に総遇してしまったらそれはそれで構わないのだけれど。社内恋愛禁止な訳ではないし、一緒にいる言い訳ならいくらでもできそうな気はするけれど、やっぱり、なんとなく。目的地に到着すると店を覗いて回る。男性と一緒に買い物なんて久しぶり。ちょこちょこ冗談を言いつつも、西島のチョイスやアドバイスが私の好みの的を得ていて妙に感心してしまう。おかげで思ったよりも早く買い物は終了。少し早めだけど夕飯は西島の希望で肉も野菜も食べたいからとしゃぶしゃぶ。
「ノンアルコールな鍋なんて久しぶりだわ」
西島は運転があるから飲めないし、私も昨日のことがあるからアルコールは注文しなかった。
「いいじゃないですか、健康的で。帰ったら少し飲みますか?」
「缶ビール1本くらいにしとこうかな?冷蔵庫で冷えてるし」
「え?榊さんご自宅に帰るおつもりですか?」
「え?なんで?」
「今夜は帰さない」
低い声を出して真顔でカッコつけて言うから思わず吹き出してしまう。
「二日連続でご厄介になってもいいの?」
「榊さんだったらオレ的には毎日でも全然オッケーです」
「さすがに毎日はムリ」
「ですよねー」
あ、尻尾下がった。顔は笑ってるけど。でもさ、わかってるのかな?毎日一緒にいるっていうことがどういうことなのか。まぁ、そこまで考えてないんだろうけれど。
「あ、でも着替えがない」
「え?服買ったじゃないですか」
「いや、下着とか」
「あー。まだ閉店まで時間あるから食べ終わったら見に行きますか?オレ、喜んでお供しますよ?」
「断る」
「えー、一緒に選びたいです」
「ヤダ。他のお客さんの迷惑になるじゃない。一緒に入ってくるカップルもいるけど、私はイヤ」
またしょんぼりさせちゃった?でもこればっかりはねぇ。
「そんなに落ち込まないでよ。あとでたっぷり見せてあげるから」
「い、いいんですか?」
ゲンキンなヤツ。目キラッキラしてますけど?
「しょうがないから今夜は特別。その代わり私が買い物している間に、西島は例のブツ仕入れてきてね?たしかこの中にドラックストアあったから」
「了解です!」
食事を済ませて下着屋の手前で別れる。あんまり待たせるのもかわいそうだしチャチャっと選んでブラとショーツを3セットとルームウェアを購入。ついでに通販用のカタログをもらって店を出るとちょうど西島が戻ってきた。そのまま食料品売り場でアルコール度数の低い缶チューハイとちょっとしたつまみ、明日の朝ご飯用にパンと卵とウインナーを買って西島の車に戻る。
「榊さん」
「なに?」
運転席の西島が車を動かす前に私を呼ぶ。
「…手、つないでもいいですか?」
「…いいよ?」
「本当はさっきから繋ぎたかったんですけど、誰かに会ったらマズイかなと思って…」
「そっか。運転に支障のない範囲でなら、ね。信号待ちの時とか」
「アリガトウゴザイマス。動くまえに早速…」
おずおずと差し出される手。なんだか可愛いなぁ。こんな大きな手で、私の小さな手なんて簡単に包み込むのに。恥ずかしいのかまっすぐ前をむいたまましばらく私の手を握っていた。
「西島」
「どうしました?」
「ううん、呼んだだけ。こっち向いて欲しくて」
不思議そうな顔をしたヤツに不意打ちでキス。薄暗い車の中でも西島の顔が真っ赤になるのがわかる。
「行きますか?」
「うん、行こう」