第1章-5
彼女の、この会社の本部長代理という肩書きが、優越感を満足させていた。
多くの優秀な男達がいる中で何故女が、その威光を発揮できているのか・・
それは社長の幸彦に眼を掛けられているからだ。
いわゆる、その本部長代理の肩書きを持つ女は、社長の女と言って良い。
その女は、幸彦が先日、ホテルで抱いていた女である。
彼女は優秀ではあるが、誰も彼女に仕事上で言える者はいない。
当然、男達は彼女がワンマン社長の女だと知っているからである。
優秀であり、切れる女であることは間違いないのだが、それが為にマイナスの面も否めない。
それは彼女が美しい上に、プライドが異様に高いのである。
女子社員等は恐れをなし、用がなければ近寄らない。
彼女はそれで満足していた。
男達が、出世のチャンスをその彼女の為に何度も苦節を味わったことか。
しかし、それでも皆が一様に彼女を認めざるを得ないのは、
社長の女であり、彼女が飛び抜けて美しく、
最高のプロポーションを誇っているからでもある。
彼女の名前は「エリカ」と言う。
歳は三十二歳になったばかりだった。
今、その部屋では営業課長の青田が固くなり、
エリカの前で不動の姿で立っていた。
「青田、どうしてこんな数字を上げてくるの?どうして!
ちゃんと営業努力してるの?あのプロジェクトどうなってるのよ!」
エリカは、青田が差し出した分厚いファイルを床に叩きつけた。
彼女の美しい顔は引きつり、あの時の女とは別人のようだった。
今のエリカには、あの甘えた優しい表情など誰も想像できない。
エリカよりも年長の青田は、名前を呼びつけにされても黙っていた。
この女に言われたら、どう反論しても敵わないからだ。
「あ、はい、代理・・あのプロジェクトは立ち上がったばかりでして、
そんなに直ぐには成果が・・」
青田はエリカの顔もまともに見られず、それこそ蒼い顔をしていた。
「まあ、いいわ、しっかりホローしなさいよ!」
「わ、わかりました代理、失礼します」
「本部長代理と言いなさい!」
「はい・・本部長代理・・」
汗を拭き拭き青田は頭を何度も下げ、
エリカが投げつけたファイルを拾った。
その時、彼女に背を向けた青田の背中は怒りにブルブルと震えていた。
(いつかは、この女を・・・)
「失礼しました・・」
心とは裏腹に告げ、青田は部屋をそそくさに出て行った。
(まったく気が利かない男ねぇ・・・)
エリカはいらいらしていた、どうも最近会社の業績が思わしくなく
不安に感じていたからだ。