第１章-4
その部屋は、高層ビルの中にあった。
会社はヒルズ・ビルディングスの或るフロア一面の全部を借り切っていた。
幸彦が経営する高星商事が、その会社である。
最近、少しばかり知名度が上がっては来たが、まだ一流とまで業界から認知はされていない。
それを何とかしようと思っているのだが、業界はそう甘いものでもない。
社長の幸彦は、なにかにつけ副社長以下に発破を掛けてはいるのだが、気は許せないでいた。
業界で顔が利き、如才のない彼が何とか打ち立てて会社であり
幅広い人材を利用し、顔見知りの政治家にも声を掛け何とか立ち上げた会社である。
その政治家も顧問として影でアドバイスを受けてはいるが、公には出来ない。
政治資金規制法に抵触するからである。
その辺りの処理には幸彦は抜かりがなかった。
その会社が扱う種類はいくつかある。
扱う商品は多岐にわたっている、それが商社たる所以だろう。
ソフトウエアの開発、自動車部品、医療・バイオの関係
更に変わったところでは、夜のクラブの経営にも触手を伸ばしていた。
その種類が増える度に従業員も少しずつ増えてはいたが
それでも一人の社員が幾つもの商品を扱わなければならなかった。
故に誰もがいつも忙しかった。
こういう手の商社は無数ある、大手から中堅
更に高星商事のような下位にある商社は大変だった。
一度、食らいついたら離さず、更に拡充してそれを広げるのが鉄則である。
時には強引に商談を成立させることもあり
その為には危ない橋を渡ることもある。
明るく現代的なビルの中では、そういう社員が忙しく立ち働き
電話のやり取りで、大きな声が飛び交っている。
まさに、ビジネスでの戦場と言える。
そのビルの中で
午前中の真新しいその部屋には、明るい陽が差し込んでいた。
そこだけは、まるで別世界のように雑音は余り聞かれない。
そこには
ビジネスをする部屋には似合わない、女らしい調度品が何故か気になる。
花瓶の中で、美しい花が何とも言えない香りを放っていた。
やはり、そのあたりにいくらか女らしさを感じるのだろうか。
大きな部屋の窓に面して、営業本部長代理の机がどっかりと置かれている。
重厚なその造りは、重厚感があり、どっしりとしている。
色はローズウッドで、その構えは両袖机であり申し分ない。
その材質は高級なマホガニー材を使用しており
これなどは社長が許可しなければ、滅多には本部長代理と言えども使えないし
重役でもこんな机を持ってはいない。
営業本部長は社長が兼務しており、事実上は代理が勉めている。
窓の外を見れば雄大な富士山がうっすらと見ることが出来る。
その机に座る人物は、本部長代理の肩書きを持つ女だった。
彼女は社内一番に切れる才女と呼ばれる女であり、更に美しい。
外見だけでなく、その才知は大変なもので、まさに男をも凌駕する。