カオルC-6
元々、平日までバレーを習わせるつもりはなかった。だから、座間や直樹の母親に誘われた時も保留にしていた。
しかし、須美江は昨夜、娘の部屋で何が行なわれたのかを、知ってしまった。
2人が自室に消えて1時間ほど経った頃、部屋の中から漏れ聞こえた声に、胸をかきむしる思いがした。
(早く何とかしないと、2人共、おかしくなってしまう)
そう考えた須美江は、平日の練習参加を決めたのだ。
(とにかく、薫をバレーにのめり込ませないと…)
母親としての、悲痛な願いだった。
薫が、練習の支度をしている頃、真由美は下足場を出たところだった。
(何だか、嫌な1日だった…)
登校前の出来事から始まったマイナス感は、学校でも消えることなく真由美を落ち込ませた。
そんな日に限って、授業中にミスを犯す。注意力が足りないと怒られたのは、今日だけで3回もあった。
全ては、己の未熟さ故にと解っているが、認めたくなかった。
(これで、家に帰ったら、また言われるんだろうな…)
そう考えると、無意識に足取りも重くなる。
「真由美ぃー!」
そんな真由美を呼び止めたのは、ひとみだ。
「足早いから、追いつくの大変だったよ」
「何しに来たのよ」
フランクに話しかけるひとみに対して、真由美は敵愾心むき出しの言葉遣いだ。
「えらい言われようね?」
「当りまえでしょう!変なこと訊いてきたくせに」
「変なことって、人に言えないこと?」
からかうような口ぶりに、真由美は耳まで赤くなる。それを見たひとみは、またクスクスと笑った。
「もういい!さよなら!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
駆けだそうとした真由美を、ひとみは慌てて引き止める。どうやら、やり過ぎたようだ。
「ごめんって!悪かった」
「人を小バカにして!あんたの神経疑うわ」
「悪かったって!このとおり」
両手を合わせて必死に謝るひとみ。姉がいて大人びた言動をみせるが、心の余裕を失うと地の15歳が顔を出す。
そんな友人を見た真由美は、怒りを半端なまましまい込んだ。
「今度あんなこと言ったら、終わらせるからね!」
「わかってるって!」
どうやら、収まったようだ。
「それよりもさ、今日は暇でしょう?」
「あんた…懲りてないみたいね」
「そうじゃなくて、塾もないでしょう」
ひとみの言う通り、塾は昨日まで合宿だったので休みだった。