カオルC-4
(くそ…くそ…)
慌ただしいというより、鬱積した思いをぶつけてるように繰り返す。
鏡に映る自分は、眉間にしわを寄せた険しい顔をしていた。
「こんなつもりじゃないのに…」
胸が痛い。たったひとつのきっかけで、素直になれない自分に吐き気がした。
「すいません、遅れました」
真由美が学校に着いたのは、授業後前にあるホームルームの時刻だった。
(なんか、いやだ)
扉のむこうにいる全ての眼が真由美に注がれた。
次の瞬間、静寂だった教室がざわめきがだした。
「遅刻の理由は?」
教壇の傍ら、椅子に腰かける担任が訊いた。
「…寝坊です」
担任は、ちょっと渋い顔をみせただけで、それ以上言及しなかった。
「席につけ」
「はい…」
真由美は、担任に一礼して、列の中ほどにある自分の席に向かった。
視線の先には、昨日一緒だった谷口ひとみが此方を窺っていた。
席に着くと、通路を挟んだ隣席のひとみが小声で訊いた。
「珍しいね、遅刻なんて」
放っといて、と真由美は思ったが、無視するわけにはいかない。
「ちょっとね」
視線を合わせず、ひと言だけ答えた。額面通りに受けとれない表情をしていた。
ひとみは、しばらく真由美の様子を見ていたが、やがて諦めて前を向いてしまった。
10分ほどでホームルームは終わった。生徒逹は、授業前のわずかな時間をお喋りに費やす。
「なにか、雰囲気が違うね」
それはもちろん、ひとみも同じで、早速、真由美に近づいた。
「人に言えないことかな?」
ひとみの言葉に、真由美は身体が熱くなる。頬が紅潮した。
「わかり易い性格…」
狙った成果を得て、ひとみはクスクスと笑った。
「まあ、喋りたくなったら教えてよ」
席に着いたひとみ。真由美は、その横顔を睨みつけた。