異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド・メイヴ-14
「すごい締め付け。さすが、ジュリアス様が夢中になるだけの事はありますのね」
「嫌っ……メナファさっ……あぅっ!」
体の中で指を折り曲げられたらしく、深花の首振りが激しくなった。
「あら。まさか、ここも開発済みですの?さすがジュリアス様、抜かりありませんのね……」
「褒めてくれて嬉しいぞ、メナファ」
氷のように冷たい声が、ジュリアスから発せられた。
「だが、そろそろ止めてもらおうか……これ以上、俺を怒らせるな」
組み敷かれた深花の顔に、助けが現れた安堵とそれが恋人だった事による絶望が交差する。
ゆっくりと、メナファが振り返った。
一瞬だが、その表情に慟哭がよぎる。
「どうして、ここに?」
奇妙なまでに無表情になると、体を起こしながらメナファは尋ねた。
「帰りが遅いから心配して迎えにきただけだ。大正解だったみたいだがな」
そう吐き捨て、ジュリアスは上着を脱ぎながらベッドに近づく。
「……ジュリ……」
怯えた風に首を振る深花を上着でくるみ、ジュリアスは抱き上げた。
そのまま、無言で部屋を出ていく。
少しして、玄関ドアが開いて閉じる音がした。
六年前は、互いに未練を残した別れだった。
そして今、彼は自分を心底憎んで別れたろう。
……それで、いい。
自分も彼も、未練を断ち切って決着をつけねばならなかった。
そのために、彼女を利用したのだ。
「奥様」
いつの間にかベッドの傍までやって来た執事に取り縋り、メナファは泣いた。
彼には、彼女の考えが理解できた。
「無茶をなさいましたね……わざわざ、ご自分がつらいやり方を選ばれた」
「……こうでもしないと、私が先に進めなかったのよ」
「存じております」
職務を忘れ、執事は女主人を抱き締める。
彼は元々、メナファの勤務先が雇っていた警備員だった。
彼女がのれん分けで別館の女主人を勤める事になった際、身の回りの世話を頼むために引き抜かれた。
彼がそれを素直に引き受けたのは、秘めた想いがあるからだ。
彼女もまた彼をそう捉えているから、自分の執事として引き抜いた。
「……さようなら、ジュリアス様」
目を覚ました時の状態は、惨憺たる有様だった。
ベッドシーツも自分の体もぐちゃぐちゃのどろどろ、汗やら何やら色々な汁まみれである。
身動きしようとして、体に巻き付いた二本の腕に気づく。
「あ……」
ジュリアスの、腕。
視線を上にやれば、同じく汁まみれな男が寝息を立てている。
「……」
ぼんやりと、寝入る前の事を思い出した。
媚香の効果が全身に行き渡って肉欲を露にした自分を、ジュリアスが全て受け止めた。
抱いてくれと際限なくせがむ自分を、こうして眠ったのか気絶したのかはっきりしない状態まで持ち込んでくれたのだ。
分厚いカーテンのかかった窓から漏れ入る光からして、夜ではないが……日中のいつ頃なのかまで、窺い知る事はできなかった。
「!」
大きなあくびとともに、ジュリアスが目を覚ます。
「あぁ……悪い。居眠りしちまったか」
寝ぼけ眼で愛撫を始めたその手をぴしゃりと叩くと、彼は目をぱちくりさせる。
「おはよう」
そう言うと、その目に理解の色が差す。