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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド・メイヴ-15

「……正気づいたか」
「うん……」
 申し訳なくなってうつむいたが、すぐに上を向かせられた。
「おはよう」
 言葉の後、優しく口づけられる。
「……ごめんなさい」
 唇が離れると、深花はそう呟いた。
「……浮気、しちゃった……」
 あの時、顔によぎった絶望はそういう意味だったらしい。
 ジュリアスは、思わず失笑した。
「クゥエルダイドといいメナファといい、お前の下半身はどうしてこう狙われやすいんだろうな?」
 もう一度、唇を落とす。
「お前は被害者だ。少なくとも、俺はお前に怒っちゃいないから安心しろ」
「うん……」
 そう言ってもらえれば、深花はほっとするしかない。
「……メナファさんにも、怒らないで欲しいな」
 そう呟くと、ジュリアスは怪訝な顔をした。
「あの人の言葉は、私が気づいていなかった事を教えてくれたの」
 貴族令嬢のリュクティスはともかく、平民として扱われる自分がこれから遭遇するはずの危難をメナファが教えてくれたような気がしてならない。
 この男の傍にいるだけで自分が受けるはずの理不尽な嫌がらせに対する覚悟を、植え付けてくれたのだと。
「お前がそう言うなら……」
 いかにも渋々といった口調で、ジュリアスは承諾した。
「ありがとう」
 抱き着いて感謝の意を表すと、彼の頬はだらしなく緩んだ。
 付き合い始めてからこの方信じられないほど激甘な態度に驚かされているが、この時ばかりはそれに感謝する。
「……とりあえず、起きるか」
「うん」
 まずは汗みどろの体を流して、さっぱりする所から始めた方がよさそうだ。


 身じまいをして食堂に行くと、エルヴァースとリュクティスが食事中だった。
「兄上!姉上!」
 入り口に立つ二人を見て、エルヴァースが声を上げる。
「姉上……お体は、もうよろしいのですか?」
 メナファ宅から連れ帰られた深花の狂乱を伝え聞いていたので、エルヴァースは真っ先にそれを心配する。
 聞かれた深花は、真っ赤になりながら頷いた。
「うん。心配してくれてありがとう」
「一体何があったのか、お聞かせ願うわけには参りませんの?」
 必要ならば懲罰も辞さないと言わんばかりなリュクティスの声に、深花は首を振る。
「あの方は、ご自分でこの結末を選ばれました。もう、接触しないのが一番いいと思います」
「こいつがそれでいいなら、俺は彼女に何もしない。いいな?」
 二人の強い声に、夫婦は頷くしかなかった。
 またしても夕食を抜いた二人のために、コックがたっぷりボリュームのある食事を出してくれた。
 二人がもりもり食事を平らげるのに、食後のお茶を飲みながら夫婦は付き合う。
「そういえば、父から姉上に伝言が」
 空腹が一段階すると、エルヴァースがそんな事を言い出した。
「支度金はいくら欲しいかと」
 言われた深花は、困った顔になる。
「そもそも実感が湧かないんだけど……結婚式は、まずどのくらいの規模に?」
「わたくしと夫の式は、かなり盛大でしたわ」
 リュクティスが、優しく言った。
「次男がかなり盛大なら、長男の俺達は相当になるぞ。ユートバルトはもちろん、下手すりゃメルアェスまで出席したがるかもな」
 ジュリアスが、にやにや笑う。
「ユートバルトの式は、王族だからこその派手さだ。あれよりは地味だが、それでも招待客は千人規模。一週間は祝賀ムードが続くぞ」
「そんななの……」
 やっぱり、実感は湧かない。
「挙式費用は当然、全額うちで持つ事になります。姉上の支度金は、兄上へ何かプレゼントするのに使うのが無難だと思いますよ」
 エルヴァースの言葉に、深花は考え込む。
「プレゼントかぁ……」



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