投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

a village
【二次創作 その他小説】

a villageの最初へ a village 42 a village 44 a villageの最後へ

C-6

「ありがたいけど、今日は帰るよ」


「ど、どうして?」
「だって、先生きつそうだもん。それに、母ちゃんも待ってるから」

 哲也は、そうに答えて玄関の方へと向かっていく。
 雛子はすぐに後を追った。

「今日は、本当にごめんなさい」
「いいよ、気にしなくて」

 外は、すでに日が落ちていた。

「また明日ね」

 哲也は、リアカーを引こうとして、肝心なことを伝えてないのを思い出した。

「それと、お風呂沸かしてるから」
「ええっ!」
「さっき点けたばかりだから、大丈夫だと思うけど…」

 そう言って、雛子に背を向けた。

「ありがとーーー!」

 哲也の右手が声に応えた。
 雛子は見えなくなるまで見送った後、家の中に戻った。

「もうちょっとね」

 湯加減をみてから、勝手口を出て、裏にある風呂焚き場を覗いた。
 暗闇の中で、石炭が赤々と燃えている。これなら、湯が沸き上がるまで足りるだろう。

「じゃあ、晩ごはんの用意にかかるか」

 雛子は、米びつから明日の分まで米を取り、研ぎだした。

(情けない…)

 今日1日で脆くも崩れた決意。いや、決意と言うのもおがましい、独りよがりだ。

 雛子は今、己の甘さを痛烈に噛みしめる。

(これじゃ本末転倒だ…)

 そして、厳しくあらねばと言い聞かせた。





 翌朝。

「先生!おはよう」

 哲也の手が玄関の扉にかかるより、先に扉が開いた。

「おはよう!」

 現れたのは、すでに野良着を着た雛子だった。
 はつらつとした表情。哲也が見ても、昨日とは気構えの違いが伝わってくる。

「今日もよろしくね、先生!」

 突拍子もないことを言う雛子。聞いた哲也は戸惑った。

「何?先生って…」
「哲也くんは、百姓仕事におけるわたしの先生って意味よ」
「先生に先生って言われて…何だか、変な感じだね」
「んふふ…行きましょう」

 2人は笑顔を交わし、庭へ向かった。


a villageの最初へ a village 42 a village 44 a villageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前