投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

a village
【二次創作 その他小説】

a villageの最初へ a village 41 a village 43 a villageの最後へ

C-5

「あらあら、可愛いお顔が台無しね」

 母親は、割烹着のポケットに入れた手拭いで、雛子の濡れた顔を拭いてやった。

「お母さんは、軍人さんの肩を持つの!」

 信じられないという顔の雛子。対して母親は、変わらず笑みを浮かべてる。

「雛子がやってる薙刀は、敵が攻めてきた時に、自分を守るためのものでしょう?」
「…うん。そう教えられた」
「もし、薙刀が使いこなせなかったら、逆に殺されたりするのよ」
「あ…」

 どうやら、母親の言わんとすることが解ったようだ。

「生半可なことじゃ自分を守れない。一生懸命にやれって言ってるんだとお母さんは思う」
「……」
「軍人さんはね。雛子たちに、自分の身は自分で守れるように厳しく叱ってくれてるのよ」

 立場が違えば考え方も変わる。それも解らず、主観だけで人を判断すべきでない。

 母親から言われた初めての訓示だった。

(…お母さん…)

 眠りに落ちそうな雛子を、誰かが揺すっていた。

「先生!寝ちゃだめだって」

 哲也だった。
 用事を済ませて戻ってみると、雛子がそのままいたから、起こしているのだ。

「ほら!起きなって」
「…あ…ああ?」
「やっと起きた…」

 ようやく目を開けた雛子。

「…眩しい」

 裸電球の光が、目に刺さる。起き上がろうとするが、身体のあちこちが痛い。

「アイタタ…」
「先生、寝ちゃだめだって言ったじゃない」
「今、何時?」
「5時半だよ」

 茶の間に運ばれたのが5時過ぎだったから、20分位眠っていたようだ。

(…ずいぶん寝てたみたいだった)

 母親との出来事が鮮明だったのだろう。つい、感傷に浸っていた。
 しかし、哲也は、そんな雛子に呆れてしまった。

「先生、いい加減に起きてよ」
「ご、ごめんなさい」

 強い口調に、慌てて反応する。

「僕、そろそろ帰るから」
「えっ!」

 思いもよらぬ言葉に、雛子は正気に戻った。

「ち、ちょっと待って!晩ごはんは?それにお風呂も入ってってよ」

 引き止めようとするが、哲也は首を横に振った。


a villageの最初へ a village 41 a village 43 a villageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前