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天使に似たるものは何か
【SF その他小説】

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天使に似たるものは何か-2

 後日、R・ロビンは娼館の支配人、トーマス・エディングトンとR・ミシェルについて話をした。四方山話のついでに出たことであったが、エディングトンは太った指を不器用に絡めながら、神妙な様子で深く息を吐き出した。両者はテーブルをはさんで対面のソファに座っていたが。R・ロビンは、紅茶の湯気の向こうに見える中年男が何故急に深刻な顔をしたのかまるで理解できなかった。
「自分の存在意義を問うオートマトンか………。まあ、聞かない話ではないがこのミモザ館では初めてのことだな。しかし、初期不良の兆候が見られるわけではないのだろう?もしそうなら、R・ミシェルはリニューアルされ、同型機も回収、場合によっては全て廃棄される可能性もある」
 トーマス・エディングトンからリニューアルという言葉を聞き、R・ロビンもまた深刻な顔を見せた。そして、同じ深刻な顔をしていても、両者が不安に思っていることには些かの食い違いがあり、R・ロビンの方にはその食い違いがはっきりと見えていた。
「リニューアルと言っても、成功する率はかなり低いのでしょう?完成した陽電子頭脳に外部から手を加えることは人間はおろか、スーパーコンピューター、ブレインにも難しいと聞いています」
「ああ、大抵は人格を破壊されてしまって、ゼロ地区の売春宿に払い下げられるか、そのまま廃棄処分だな。だが、エレキシュガル工業の欠陥オートマトン騒ぎや、ダンバーの叛乱事件を考えれば、剣菱のお偉いさん方が神経質になるのも無理からぬ話だろう?人間は人造人間と比べて脆弱な存在だ。だから安全策はいくらとられてもやりすぎというのはないのさ」
 エディングトンの言葉を聞いて、R・ロビンは内心、自嘲気味に笑った。人に危害を加えるのはその多くが人である。同族に利己的な理由で害を為す人間は狂ったオートマトンより質が悪い。ヒステリックな被害妄想で人格を有する人造人間をいとも簡単に廃棄する人間は、一体何の為にオートマトンを生み出すのだろうか。
「いずれにしても、R・ミシェルはまだ初期不良があると認められたわけではありませんので、仮定の話を続けるのは無意味です。何度か繰り返された精神鑑定テストにも問題有りませんし、私が違和感を感じたからと言ってそれは根拠にはならないでしょう」
 エディングトンはR・ロビンの言葉を聞いて然りと頷いた。別段、彼はR・ミシェルを欠陥品として処分したいわけではない。それに、オートマトンを人間の友として考えているので、不当に扱おうという気もない。彼は悪人ではないと言うだけの善良な人間で、単に厄介事が持ち上がらなければ良いと、ただそれだけを願っているのである。
「それでは、私はそろそろ戻ります。紅茶、御馳走様でした………」
 R・ロビンはそう言って立ち上がると、軽く頭を下げた。丁度、ティーカップに指をかけていたエディングトンは軽く頷いてそれに応じると、ぬるくなったアールグレイを口に流し込む。
「もしかすると、………」
 紅茶を飲み下したエディングトンが呟きを漏らし、それを耳にしたR・ロビンが立ち止まり肩越しにエディングトンの顔を窺う。
「もしかすると、R・ミシェルの人格の元となった人間が影響しているのかもな…」

 結局、心配性のエディングトンはR・ミシェルをアンドロイド心理学者に診断してもらうよう、親会社である剣菱に依頼した。その事でR・ロビンは話が大きくなることを懸念したが、R・ミシェルに取り立てて異常が見られない事から、エディングトンの気が済めばと、敢えて診断に異論は唱えなかった。
 R・ミシェルの初夜権をかけたオークションが迫っている為、診断は即日行われることとなり、翌日の朝、ミモザ館を若いアンドロイド心理学者が訊ねてきた。訊ねてきたのは端正な顔の美青年で、身なりも良く、高名な学者と聞いていたR・ロビンは、ノッカーを鳴らした男がそうであると聞き、人造人間ながら驚いた顔を見せた。
「あ、あの、あなたがDr・パトリック・マクグーハンでいらっしゃいますか?」
 名前を問われ、微笑みを湛えて応じる美青年。
「ええ、そうです。僕がパトリック・マクグーハンです。やあ、あなたがロビンさんでしょうか?想像していたとおり、いや、想像以上の美しさだ。お目に掛かれて光栄です、美しい人。僕のことはパトリックと呼んで下さい」
 Dr・パトリック・マクグーハンはモノクル越しにR・ロビンの身体を眺め回すと、馴れ馴れしい様子で細く繊細なロビンの手を握りしめた。戸惑いながら、静かにマクグーハンの手を開くR・ロビン。
「あ、あの、Dr・マクグーハン?御存知無いのなら申し上げますが、私は人間でなく、オートマトンなのですよ。それもかなりの旧型で、今は此処の支配人の御厚意で廃棄処分にもならず、新型オートマトンの教育係をやらせていただいています」
 R・ロビンはおずおずと説明するが、マクグーハンはまるで意に介さなかった。
「パトリックと呼んで下さい美しい人。勿論、あなたが剣菱によって造られたオートマトンであることは知っていますよ。最初にあなたを剣菱のサイトで見つけたときの衝撃は今でも忘れられません。あなたは僕の女神だ。僕がアンドロイド工学を志したのはあなたのような美しい人がオートマトンであったからに他ならない…」


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