やっぱすっきゃねん!VQ-4
(ちょっと力んでるな…)
1人目との対峙でイメージと実践の違いは見定められた。後は、如何に早く軌道修正出来るか。
直也が、自分のピッチングを冷静に分析していた時、
「今の…見た?」
ベンチの佳代は、唖然とした顔で傍にいた下加茂や川畑に訊いた。
「見たって、何をです?」
「今の、森尾くんの守備…」
不可解な質問に、顔を見合わせる2人。
「うまい位置取りでしたよねえ」
川畑の答えに、佳代は「違う、違う!」と声を強く張った。
「打つ瞬間、定位置から2塁方向へダッシュしたの!」
「そんな!」
「本当だって!あんなの初めて見た」
打者が打つ瞬間の身体の開き具合で、打球方向を判断する。
ほとんどの野手は飛んだ打球に反応するのに対し、そこまで察知できる野手は稀だ。
当然、本人の才能はもとより、相当な努力を伴ってのことだろうが。
「すごいや…」
卓越した森尾の能力を垣間見て、佳代は驚喜した。
先頭を切られ、2番バッターが右打席に入る。達也は、ネクストサークルからの一連の動作も見逃さない。
構える際、右手がバットの芯辺りに軽く触れてグリップを握った。
(内角高め…)
サインに頷く直也。
大きく振りかぶって投じた初球。バッターは、2歩3歩と前に出ながらバントの構えをした。
(セーフティー狙いか!)
サードとファーストのダッシュが遅れた。
が、
ボールはバットに当たった瞬間、真上に上がった。
「オケイ!」
達也がマスクを飛ばして捕りに行く。ホームから前へ出ようとした瞬間、何かがぶつかってきて、その場に倒れた。
「な、なんだ!?」
見れば、バッターが達也に被さるように倒れてる。すぐに主審が試合を止めた。
「インターフェア!バッターランナー、アウト!」
要は走りだしたバッターと、捕球にいった達也がぶつかったのだ。
すぐに直也が近寄ってきた。
「大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
達也は立ち上がって、ついたドロを払いのけた。
「本当に常連校か?あからさまな守備妨害なんて…」
「先制したくて焦ってんだろ」
不快さを表す直也に対し、ぶつけられた達也の方は気にした様子もない。