やっぱすっきゃねん!VQ-16
(なるほど。ガチガチだな)
選手の中には、試合で充分に力を発揮する者と、そうでない者に分かれる。
達也は、バッターが後者だと見抜いた。
2球目もカーブで空振りを取ると、3球目は一転、内角を突いた。
「ストライクスリー!」
見逃しの三振。
青葉中は、なんとか難を逃れた。
「ナイスピッチング!」
選手逹やベンチの控え選手が直也の投球を称えた。
しかし、
「ピンチを脱したのは良かったが、その前の1人相撲はらしくないな」
永井の叱責が待っていた。
「すいませんでした!」
直也は、深く頭を下げた。
「あんな凡失(愚かなプレイ)やってたら、勝てんぞ!」
「はい!気をつけます」
久々の檄に再び頭を下げると、ベンチ裏へと消えてしまった。
自分の場所に腰かけ、グラブを置いた。
(なんで、あんなプレイを…)
信じられなかった。ボールが目の前に転がってきた瞬間、躊躇うことなく、セカンドに投げてしまったことが。
「大丈夫?」
1人、自問自答していた時、佳代が中に入ってきた。
「なんだよ?」
気持ちとは裏腹に、荒れた応えになってしまう。
「い、いや、落ち込んでるみたいだからさ…」
「……」
一方の佳代も、人を励ますことは慣れていないから、どう接していいのか分からない。
「とにかく、ほら、気持ち切り替えて」
そう言うと、ヘルメットと手袋、バットを差し出した。
「…自分で打って先制してさ。完投するんだろ」
「なんで知ってんだよ?」
「さっき、省吾と話してるの聞こえたもん」
直也の顔から、険しさが消えた。
「まったく…」
ヘルメットを受け取り、手袋を身に着ける。
「おせっかいな野郎だ」
「残念だけど、女だよ!」
2人の間に、不敵な笑みが浮かんだ。