やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑱-15
３塁ランナーを警戒しながら、セットポジションに入った。
グラブの中でボールを浅めに挟む。深く挟むのに比べて変化は小さいが、制球は良くなる。
素早く小さなステップで窪みを踏み込む。上体を一気に前に傾け、全体重を左足にかけた。
胸を弓のように反った後、上体を回転させ、腕が遅れて振り出した。
リリースの瞬間、直也はリストを効かさず投げた。
外角低めのストレート。バッターは、ファウルで粘ろうとバットを振りだす。
ボールは、途中から落ちた。が、バッターは想定していたようで、アジャストしようした。
しかし、バットの振りを合わせようとした瞬間、ひざに痛みが走って動きが止まってしまった。
結局、バッターは中途半端な振りのまま三振した。
（くそったれ。スピリット投げやがって）
苦笑いを浮かべる達也。
このアウトで雰囲気がガラリと変わった。次の４番を、カーブでキャッチャーのファウルフライに仕留め、２アウトまでこぎつけた。
（ここだな）
５番バッターが、ネクストサークルを立ち上がった。
前の２打席は凡退したが、達也の見立てでは１番タイミングが合っているバッターだ。
「タイムお願いします」
主審にタイムを要求してマウンドに向かった。
「何しに来たんだ？」
当然、直也は気分を害する。気持ちが乗ってきたところなのに、間を取られたことで。
しかも、達也の言葉が、さらにそれを助長させた。
「次の５番、歩かせるぞ」
「なんだって？」
直也の表情が、みるみる険しくなる。対する達也も、真剣な眼差しだ。
「確率の問題だ。やつはタイミングが合っている。だったら、満塁にして２三振の６番と勝負するのがセオリーだろう」
「くっ…」
至極もっともな意見。
「ここを抑えりゃ、流れはうちに来る。堪えろ」
「わかった」
直也は、しぶしぶ従った。
５番バッターを歩かせて、２アウト満塁で６番勝負と思った時、大谷西中ベンチから伝令が出た。
６番バッターとセカンドランナーを下げて、代打と代走を出してきたのだ。
「ここを、勝負どころと捉えてるな…」
稲森も、キャッチボールの手を休めて行く末を見守っていた。
代打のバッターは、２度３度と素振りを繰り返した後、右打席に入った。
１８０はある長身と、中学生ばなれした体躯に、達也は疑問をもった。
（見かけ通りなら、クリーンアップを打ってとも不思議じゃない。それが、そうじゃないってのは…）
明らかに劣る部分があるはずだと。
（初球は、これでいこう）
達也のサインに直也は頷き、初球を投じた。外角へのカーブだ。
大きな弧を描く変化に、バッターはついて行けずに大きく空振りした。