やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑱-12
「また、いつものパターンかな…」
選手がグランドに散った後、永井がぽつりと口にした。
ノーアウトのランナーを、２塁にさえ進められないもどかしさ。
県大会が始まってからの貧打が、未だ解消されてないことに、不安しか浮かばない。
（こんな状況じゃ、明日は…）
何とか、この試合できっかけを掴んで欲しいと願う永井だった。
永井の願いとは裏腹に、試合は投手戦の様相を呈していた。
大谷西中が、直也のピッチングと達也のインサイドワークに、完全に抑え込まれてるのに対し、青葉中も散発な攻撃しか出来ずに無得点を続けている。
そして、試合は６回表を迎えた。
大谷西中の先頭は１番から。先制点を狙える好打順だ。
投球練習を終えた直也のもとに、達也が駆け寄った。
「この回、注意しろよ」
「わかってる」
互いの意志を確認し合うが、直也は素っ気ない応じ方だ。
しかし、達也はそれ以上、何も言わない。余計な気遣いは、直也の気力を削いでしまうと解っていた。
「じゃあ、頼むぞ」
ひと言を残してマウンドを降りていく。直也は、いつも、その背中を見て気持ちを集中させていた。
先頭バッターが左打席に入る。前の２打席の凡打が頭にあるのだろう。かなり後ろに下がり、バットを短く握っていた。
（３順目だからな。何か仕掛けてくるかも）
達也は、ブロックサインで“バント警戒”と内野手に送った。
（最初はこれで…）
サインはカーブ。仮にプッシュバントされても、打球の転がりが弱いからアウトにし易い。
直也は頷いて、大きく振りかぶった。左足が上がり、上体がねじられる。
投球動作と同時に、サードとファーストはホームへとダッシュし、ショートとセカンドも前に出た。
力強く振り抜いた腕とは対照的な、揺るやかなボールが投じられた。
逆回転から生み出されるマグナス力が、ボールを下へと変化させ、目線近い高さからひざ下まで落下させた。
しかし、バッターは初球を見逃した。
２球目はクロス気味に、内角のストレート。だが、これも打つ気配を見せなかった。
（何を狙ってんだ？）
達也はさっぱり解らない。仕方なく、いつもの責めでいこうと思った。
３球目を高めに外した４球目。達也はサインを送ると、右腕を振ってみせる──思い切り投げろの意。
（わかってるよ…）
直也はグラブの中で、ボールをはさんだ。