投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 489 やっぱすっきゃねん! 491 やっぱすっきゃねん!の最後へ

やっぱすっきゃねん!VQ-13

 躍動感あふれるフォームから、4球目を投げた。ボールは、達也の構えたミットより、やや内角にいった。
 バッターは、小さなステップからバットを振った。
 しかし、ボールは途中から軌道を変え、バットの下を潜った。

 誰もが三振と思った時、

「あっ!」

 ボールはバウンドして、達也のミットをすり抜けた。
 慌ててボールを取りに行ったが、バッターは1塁を駆け抜けていた。

 初めて、ノーアウトのランナーを出してしまった。

(まずいな…)

 達也は、新しいボールを主審から受け取り、マウンドに駆け寄った。

「すまん。止められなかった」
 詫びる達也。しかし、直也は分かってる、ボールが異様なバウンドをしたことを。

「気にすんな。ランナーを釘付けにしてやるから」

 直也は、そう言うとボールを受け取るが、その顔には余裕がなかった。

 ピッチャーは、自分が打たれたりしても、すぐに気持ちを切り替えられるのだが、予期せぬことでランナーが出たら、ひきずってしまう。ましてエラーならなおさらだ。

 それは、ベンチにも伝わっていた。

「永井さん」
「ええ…」

 初めてタイムが取られた。

「佳代。行ってこい」
「はい!」

 永井は、佳代を伝令に送ると、省吾と控えキャッチャーの下加茂を呼び寄せた。

「急ぐ必要はないからな。準備してくれ」

 先を見越して、あらゆる手を尽くす。監督としての力量を問われる場面だ。

「とりあえず落ち着いて、1人づつアウトを取っていこうよ」

 マウンドには、直也を囲んで内野手全員が集まり、永井からの言葉を聞いていた。
 たいした話ではない。嫌な流れのままプレイに入るのを避けるための措置だ。

「ここを抑えれば、次、うちは達也からだからさ」

 円陣は解かれた。
 直也は、ベンチ向こうに視線を移す。キャッチボールをする稲森が映った。

(たった1回のミスでこれか…)

 監督と選手のギャップ。目標は同じなのに、永井の指示は、直也から信頼感を削いでしまった。

(まじいな)

 達也は、直也の変化に気づいた。が、助言など無駄だと知っていた。

 2番バッターは、最初からバントの構えをしていた。
 対してサインは真ん中低めのストレート。先ずは、ひとつアウトを取る算段だ。
 直也は、セットポジションから初球を投げた。が、ボールは低めに外れた。

(力が入ってるな)

 達也は肩を上下させる──力を抜けという意味だ。

 サインは再び真ん中低め。直也はランナーを牽制し、長めのセットから2球目を投げた。
 今度はサイン通りのボールがきた。バッターはバントを試みる。
 巧みなバット操作で、ボールの力を殺したゴロが、直也の前に転がった。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 489 やっぱすっきゃねん! 491 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前