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とある街のとあるモノガタリ-2nd
【純愛 恋愛小説】

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変化-カイキside--4

「こんばんは、明希ちゃん。今帰り?」
「…………はい……?」

 店から部屋へ戻ろうとしたら、アパートの前に明希と桐原昌哉がいた。

「晩御飯は食べた? まだ?」

 アパートの外灯で2人の表情がハッキリと浮かんでいる。
 桐原の顔は優しげに笑んでいるけど、甘い雰囲気は欠片も無い。明希に至っては少し警戒感が漂っている気はする。

「はぁ……まだ、ですけど……」
「じゃ、一緒に食べに行かない? 奢るよ」
「…………いえ、いいです。忙しいんで」

 明希は半歩下がり、より警戒した表情を浮かべている。

「そう言わずにさ。少しくらい大丈夫でしょ? 明希ちゃん」
「ホントに要りませんから……」
「そう。じゃ、オレと付き合わない?」

 桐原は明希に一歩近付き、腰に腕を回した。引き寄せられた明希は上体を反らせて抵抗してる様にも見える。

 …………気に入らない。

「? 付き……?」
「今、フリーなんでしょ? 灰稀くんとは友達だってことじゃないの? 仲は良さそうだけど、付き合ってるようには見えないし」

 そのままの状態で桐原は逆の手で明希の赤い髪に触れた。

「っ!」

 自分でもゾッとするほどの苛立ちと真っ黒いものが身体中に駆け巡る。

「…………、純情そうだし、今まで男の経験してなさそうだよね」

 気に入らない。思うのはそれだけ。

「明希」
「……カイキくん……わっ」

 明希から桐原の腕を引き離し、代わりに自分の腕を巻き付け引き寄せる。

「カ、カ、カイキくん」

 明希が腕の中で固まってる。今はまあ、いいや。そんなことはどうでもいい。今は明希よりもこいつだ。

「明希が笑わない。だから、あんたにはやらない」

 十分な理由だ。明希はいつも笑ってるのに、今は全然笑ってない。店でバイトしてて、どんな客にも笑顔で接してたんだ。

「なにそれ?」
「明希が笑わなきゃ、駄目だ。明希が明希じゃなくなる」

 俺の知ってる明希が居なくなるのは、俺が堪えられない。険しい表情で俺を見る桐原は小さく舌打ちをした。

「…………面白くないな」
「面白くなくて結構だ」
「カイキくん…?」

 そう言って、俺は明希を連れてアパートの階段を上がって、自分の部屋に戻った。

 玄関で佇んだままの明希を中に促す。…………いつかの逆だな。そして、そこで初めて気付いた。

「腕……」
「? あ、今日、ギプス外れたの」

 左腕がもう固定されてない。明希はそれを見せるように、左手をぷらぷらさせる。

「そうか……良かった……」

 ちゃんと治ったのは良かった。片腕が使えないのは不便そうだったから。すると、明希はいつもの様に笑った。…………久しぶりに見た気がする。

「ありがとう………………あの、さっきもありがとう」

 そう言ってくれるのは良いけど、ふと疑問に思う。

「明希って本当に喧嘩強いのか?」

 あいつに普通に抱き締められてたけど。あんなの見てたら、どうあってもそう見えないし、ムカつく。しかも、明希は明希で目を見開いてるし。

「えっ だ、誰に聞いたのっ?」
「湯来さん」

 俺の答えに明希は項垂れると、渋々口を開いた。

「前は、だよ。湯来さんに拾われる前は、うん……まあ……それなりに。今は滅多に喧嘩しないし、そんな元気ないよ」
「…………」
「や、ホントに」

 ジッと明希を見ていたら、慌てて念押ししてきた。一応、ちゃんと答えを返してくれる。

「…………で。何で避けてた?」
「う」
「『う』じゃない」

 顔がひきつった。


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