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とある街のとあるモノガタリ-2nd
【純愛 恋愛小説】

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変化-カイキside--5

「……………………あ、あのね…………その、…………たまに、ホントにたまにあるの」

 目を泳がせていて、声に力がなくて、話しにくそうな感じは否めないが。

「何が?」
「…………急にひとが怖くなること」
「…………」
「別に何かが発端で、とかじゃなくて、急にそう感じるの。しばらくしたら落ち着くんだけど、その間はまともに話出来なくなるし、顔も見れなくなる」

 ……明希が人間嫌いだった。それは頭の奥にはあったけど、もう大丈夫なのかと思ってた。…………勝手に。

「今…は?」
「大分落ち着いたからもう大丈夫」

 にっこり笑う明希はいつも通りで、本当にあの時の明希が嘘みたいだ。

「…………ごめん」
「え?」

 また酷いことを言った。苛々が勝って、明希の話聞こうともしなかった。

「ちゃんと話を聞こうとしなかった」
「あたしがちゃんと話さなかったからだし、大丈夫だよ」

 そう言いながら流れ落ちた髪を耳に掛け直す仕草に目を向けると、左手首にそれを見付けた。

「…………? 明希、その傷……」
「……あ、ああ……これも同じ」

 明希は視線を落とし、左手首の古い一本の傷を右手で撫でる。

「湯来サンに拾われた頃……3年くらい前かな。ひとが怖いって言うより嫌いだった頃…………生きてるのが嫌になったの」

 明希の左手に手を伸ばして、触れると明希は驚いた様に顔を上げた。

 触れた明希の手は温かくて『生きてる』って思えた。

「嫌いで堪らなかった。他人よりも自分自身が一番嫌いで消したくなった」

 ……だから、本当に居なくなろうとした……。

「湯来サンに物凄く怒られたけどね」

 明希は悲しそうに笑う。

 ―――そんなの凄く嫌だ。いやだ。

 無意識に明希を引き寄せて、抱き締めた。明希はまた固まった。びっくりしたんだろうけど、体を反らしてまで嫌がる素振りはない。拒絶されてるわけじゃない。…………きっと、大丈夫……。

「……一人で苦しむなよ……明希は…一人じゃないだろ……?」
「……カイキくん?」

 顔を上げた明希は驚いてる。

 明希は一人じゃない。湯来さんも居るし、お店のお客さんや色んな人が明希をちゃんと見てくれてる。

「……俺は笑ってる明希が良い」

 明希の目を見ながらそう言ったら、明希の左手が伸びてきて頬を撫でてくる。

「そんな顔しないで……?」

 明希が泣きそうな表情で額を額に擦り付ける。

「もう大丈夫だから……そんな悲しそうな顔しないで……」

 俺は今そんな表情してるのか……。

「明希…明希……」

 温かい。明希の温もりを感じてたいんだ。明希が居なかったら、俺はここにいない。こうやって人と接することなんて出来なかったと思う。
 明希のお陰なんだ。今、こうして安心してここに居られるの。

「……明希……」

 頬を撫でてくれる明希の手を掴んで、手首を口許に寄せた。

「カ……カイキくん」

 パッと顔を離した明希は頬を紅潮させて、覗き込んできた。

「俺は……明希が今ここに居てくれて良かったって思う」
「…………」

 次は顔全体を真っ赤に染め上げて明希は目を丸めた。そして、明希の瞳から涙が零れ落ちた。

「明希…?」
「は、じめて言われた……そんなこと……」
「それなら俺も明希に初めて言われた……『一緒に頑張ろう』って。明希が初めてだ。そんなこと言ってくれたの」

 明希の左手を離して、彼女の頬に流れる涙を指で拭った。

「…………今までどれだけ頑張っても『もっとやれ』とか『そんな程度か』って言われてた……。頑張る、なんて一人でするもんだと思ってた……」

 誰かが一緒に、なんて考えたこともなかったんだ。他人なんて自分にとって何の意味もないと思ってた。

 だけど、明希がそう言ってくれて、少し前を向けた気がした。ここ数日はヤバかったけど。

「……明希……」

 頬を擦り寄せ合い、温もりを感じればそれで安心する。

 今はそれで良い。十分だ。


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