変化-カイキside--3
その日の晩は店を閉めて、部屋に戻ると何をするでもなく、布団の上でゴロゴロしてた。
明希はまだ帰ってきてない。
部屋に行った訳じゃないけど、いつも学校が終わると喫茶店に顔を出して、湯来さんに声を掛けてるから、まだ帰ってないと思う。
かといって、会ったところで避けられるのは目に見えてるからどうこうなるわけじゃない。
ずっとこのままってのは気が滅入るからさっさと片付けたい気がする。
溜め息しか出ない。
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「明希」
それから暫くしてアパートの前で学校帰りの明希を掴まえた。勿論、固まってる。
「ど、どしたの?」
正面に回っても、目も合わせない。俯いたままだ。
「最近、おかしい」
「えっ?」
自覚なのかどうなのか解からないけど、明希は目を丸めて見上げてきた。
「避けてる……と言うか、嫌ってるだろ」
「ち、違うよっ」
慌てた様子で首を横に振った。
「なら、何で避けてるんだよ?」
「え!? や、それは……その…………」
そう問うと明希は挙動不審になる。
「言えない? 言いたくない?」
「っ」
「…………解った。もういい」
何も言わないならもういい。話せないなら、聞かない。それだけ言って、俺はアパートの階段を上り始めた。
「カイキくんっ」
呼び止める声が聞こえたけど、もうどうでも良かった。
「…………ウルサイ」
もういい。聞きたくない。部屋に入って鍵を掛けた。部屋の中、電気もつけず布団の上に寝転がる。
…………一緒に頑張る、なんて嘘じゃないか。
「…………クソッ!」
馬鹿みたいだ。信じる、なんてするんじゃなかった。本当に馬鹿みたいだ……。
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「カイキくん、大丈夫?」
「あ……、すみません……」
ぼんやりしていたら、調理中の賄(まかな)いを焦がした。湯来さんが心配げに俺を見ている。
「なんか最近、凄く元気ないけど?」
「…………」
「明希ちゃんと喧嘩した?」
「…………いえ」
喧嘩なんて、してない。
そんなモンするほどの仲じゃない。
「そう。明希ちゃんも最近元気ないのよね。どうしたのかしら?」
「…………知りません」
何も言わないから知らない。
すると呆れたように湯来さんが笑った。
「もう……、明希ちゃんも貴方も不器用ね。見てると焦れったいわ。ま、頑張りなさい。お互いに言わなきゃ解らないわよ?」
「…………」