変化-カイキside--2
「いらっしゃいませ」
「あ、灰稀くん」
来客を告げる出入口のベルが鳴って、目を向けると桐原昌哉がいた。彼は適当なテーブル席に腰を下ろした。
「…………何がよろしいですか」
仕事は仕事。水の入ったコップをテーブルに置き、注文を聞く。
「モーニングセットをホットで」
「…………かしこまりました」
席から離れ、厨房に向かう中、溜め息が出た。俺を見てくる目が…気に入らない。何か、凄く喧嘩を売られてる気がする。
「湯来さん。モーニング入りました」
厨房にいる湯来さんに注文を通して、カウンターでホットコーヒーを淹れ、彼のテーブルに置いた。
「コーヒーお持ちしました」
さっさとカウンターに戻ろうとすると、何故か腕を掴まれた。
「ね、今日、明希ちゃんは?」
「…………休日しかバイトに来ません。何か?」
その上、怪我が治ってないから、少し手伝うだけ。暫くは仕方ないって本人は不満げに言っていた。
「いや、灰稀君って明希ちゃんと仲良さそうだから」
「…………」
2人で話してるのを見掛けるからじゃないのか。そう思うけど、否定するのも面倒だ。
「ね。付き合ってるの?」
何も答えない俺を見たまま、彼は目を細めて笑った。何を言ってるのかサッパリ解らない。
「は?」
「付き合ってないんなら、オレ手ぇ出しちゃおうかと思ってね。明希ちゃんってカワイイし、一途そうだから良いよねー」
「…………」
より意味が解らない。
明希をどうするって?
「で、どうなの?」
確かめるように問われるが、何も言えなかった。
そこへ湯来さんが食事を持ってきたことで、やり取りは中断になった。
「はい。モーニングセットね。あら、桐原くんだったの」
「あ、湯来さん。おはようございます」
「おはよう。ゆっくりしていってね」
「はい」
はっきり言って、どう答えればいいのかなんて解らない。
実際、明希に避けられてるのは納得いかないし、桐原昌哉にああ言われたのは『そうですか』で済ます気にならない。なら、それは何て言う『気持ち』なのか解らない。
スッキリしない。ハッキリしない。
何だよ、これ。
「じゃあね。灰稀くん」
会計を済ますと、桐原昌哉は爽やかに出て行った。結局、俺自身は何も答えなかった。あっちはあっちでそれで確信を得たのか、満足そうな顔をしていた。
…………何で答えられなかったんだろうか。俺は別に明希と付き合ってるわけじゃないし、それどころか避けられてるんだから。
それから一日、有り得ないくらいイライラしてた。湯来さんにも心配されるくらいに。