投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

刻を越えて
【SF その他小説】

刻を越えての最初へ 刻を越えて 1 刻を越えて 3 刻を越えての最後へ

刻を越えて-2

考えを遮断したのは、別れの言葉。
「明日も練習試合あるんだからね!寝坊しないでよ。バイバイ。」
圭子が彼女のシンボルである長くまっすぐに伸びた髪をなびかせて遠ざかっていく。
手を伸ばさずとも届くのに、声をかければ止まるのに、彼女は果てしなく遠い。
僕の中の何かが、歯止めをかける。
一体何が?
・・・答えはいつもはっきりしない。

 明日も試合か。今は負ける気がしない。
高校一年のとき先輩に無理やり入部させられた剣道部。
僕は強くあり続けなければならなかった。
そう思ったのは、果たして圭子を護るためだったのか。
運動はそこそこ得意だが、ずば抜けて何が優れているわけではなかった。
でも剣道は違った。初めて竹刀を手にした時、いやにしっくりきた事を覚えている。
竹刀を持つと血が逆流しているかのような感覚、敵と対峙したときの緊張感が僕の口元を緩ませる。体が奥底から熱くなり、まるで昔から竹刀を振るっていたかのようだ。
それと、何故か相手と対すると喉が熱くなる。
緊張感と共に、その熱は快感に変わっていく。
一年もするとその快感をもたらす相手がいなくなった。
―――剣を手にした俺は最強だ。
最強であるが故に抱く虚無感。
最近はその感情に終始している。
「・・・剣道もここまでかな。」

 気がつくと、目の前のうすい暗闇の中に一人の男が立っていた。
まるで僕の通り道をふさいでいるかのように。
そしてその男は僕の姿を認めると、ゆっくりと傍らに置いてあった刀を手にした。
不気味な気配が、彼の周りに満ちている。
「くっ・・」
僕の喉が急に熱を持つ。それはいつも、試合中に起きる現象だ。
しかし、その熱さは今までの比ではない。あまりの熱さに汗がふきだす。
いや、その汗は冷や汗だったかもしれない。僕は目の前の男に恐怖していた。

僕は無意識に竹刀を構えていた

僕が恐怖している?
彼が真剣を構えているからか?
この暗闇で真剣と交えるからか?
僕を睨み付けているあの眼光にか?
――――いや、違う。この喉が彼の危険を、強さを警告しているからだ。

深い闇が二人を包み込み、決して明るくはない月が二人を見ている

その暗闇の中で  

確かに  

真剣をもつ彼は 
   
わらっていた



坂本悠一偏(1)了


刻を越えての最初へ 刻を越えて 1 刻を越えて 3 刻を越えての最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前