『ポッキーとプリッツ』〜ポッキーの憂鬱〜-2
「別れてほしい。」
今日の昼休み。
そう言った安宅の声を鮮明に思い出した。
いつか来ると思っていたその言葉。
「好きな子がいるんだ。」
目も声も真摯で,本気なんだなと思った。
それは突然ではなかった。
なんとなく、そろそろくるなと思っていた。
それでも永遠にそんな言葉は言われないんじゃないかと信じたかった。
「律子が好きなんだ。」
安宅は,隠すことなく私の親友の名を口にした。
言いたいことは山ほどあった。
じゃあなんで,半年前,私の告白にOKしたの?とか
これまでの半年間は一体何だったの?とか
親友に乗り換えなんて,一体どういうつもりなの?とか
私のクラスでの立場はどうなるの?とか
律子はなんて言っているの?とか
でも,不思議と「もう私のことは好きじゃないの?」
という問いは出てこなかった。
多分,安宅は,最初から私のことはそれほど好きではなかったのだ。
告白されたから,付き合った。
それだけなんだろう。
そんな男を好きになって,あまつさえ告白した半年前の自分を呪いたくなった。
私はなんで,安宅を好きになったんだっけ?
普通にかっこよかったから?
スポーツもできて,クラスでも人気者で,目立っていたから?
律子が目で追っているのを無意識に知っていたから?
もうよく分からなかった。
ただ,好きだったのだ。
「うそつき。ずっと一緒にいようって言ったのに。」
安宅に言えた言葉は結局それだけだった。
こんなベタで陳腐な台詞を自分が吐いちゃうなんてなぁ・・・・・・。
でも,どんな言葉も、私を振る彼以上には、彼を傷つけることはできないのだ。
頭の中の一部分だけが、深い湖の底のように静かに客観的に事態を見極めていた。
最低だ。
なにが,甘くて優しいポッキーだ。
私は自分の教室内のあだ名を思い出した。
早瀬の言うとおりだった。
ただ皆にニコニコ笑顔を振りまいて,嫌われないように必死で,八方美人に計算高く生きていただけだった。
そして,そんなことをしているうちに本当に大切な人を失ったのだ。
彼氏と親友,同時に2人も。
「3人,か。」
早瀬のことを思い浮かべたら,余計涙が出てきた。