『約束のブーケ』-3
※※※
それから2年の月日が経った。
蓉子はウェディングドレスを着ている。
傍らには眼鏡をかけている誠実を絵に描いたような男。
「もう歳なのに、しかも2度目なのに可笑しくないかしら。」
蓉子は新しく夫となる男に微笑みかけた。
「いや、綺麗だよ。それに僕にとっては2度目ではないしね。」
おどけたように笑う男に、蓉子はもう一度微笑む。
常識という最低限のルールが通用する人を選んだ。
今度こそ人並みの幸せを得るのだ。
それこそ,最後のチャンス。
「うわぁ〜キレイ!」
突然、扉から案内の者に導かれた艶やかな女性。
蓉子はこの世で1番愛しい者を見るように笑った。
「遅れてしまってごめんなさい。」
「いいのよ。学会で発表だったのでしょ?」
蓉子の言葉に、洗練された笑顔を彼女は向ける。
生まれながらの美しさを惜しみなく披露するかのように。
それが全て蓉子の教え込んだ人工物であることを、微塵も感じさせない微笑。
そう、蓉子は彼女に全てを教え込んだ。
最上が女性に要求するすべてのものを。
自分が出来なかったことまで、すべて、すべて、すべて、すべて、すべて。
「最上が帰って来るのですって。」
蓉子の問に、彼女はゆっくりと頷いた。
「蓉子さんの幸せそうな姿を見たら覚悟がつきました。これから先生を迎えに行くつもりです。」
「そう。」
慈愛に充ちた表情を蓉子は浮かべる。
きっと最上は彼女を気に入るだろう。
そして気に入れば手に入れずにはいられない。子供の悲しい性だ。