『約束のブーケ』-13
「やっぱりみんな幸せになりたいんですよね。そうじゃなきゃあんなに必死になって取りにいかないか」
「いや、まだそんなこと考える歳じゃないだろ。遊び気分で楽しんでるだけだって」
よく見ると男子が何人か混じっている。
途端にブーケがお菓子のように見えた。
さしづめ飴玉を投げてそれに群がる子供の図だ。
「兄さんは取りにいかなくていいの?」
透が冷やかすように聡さんを見た。
「馬鹿言え」
聡さんが透の頭を裏拳で小突いた。
こつん、と小気味いい音がして全然痛くなさそうな顔で透は罰が悪そうに舌を出した。
「そんなものに頼らなくても俺は充分だよ。それにお前らの言い方だとまるでおこぼれをもらってるみたいじゃないか。俺は何か嫌だ」
「じゃあ他に、どんな言い方があるっていうのさ?」
額を押さえていた透が聡さんに聞いた。
聡さんは口に手を当ててしばらく考えて、やがて一人で納得するように頷いた。
「…そうだな。バトンタッチっていうのはどうだ?」
「はあ?」
「ほら、リレーや駅伝とかだと選手から選手に順番が回ってくるだろ。走り終わった選手が次の奴にレースを託して、タスキを受け取った奴がそれに応えて走り出す。俺にはブーケトスにそんな意味があればいいなって思うよ」
聡さんはそう言って、ついさっき投げられた花束の影を追うように空を見ていた。
生まれついての文科系の僕にはブーケがそんな体育会系のアイテムにはとても見えなかったが、彼の言わんとしてること、その意味を知りたくて同じように空に視線を送った。
「本当に言い方変えただけじゃん」
「お前らにも分かる時が来るさ」
まだ納得できなそうな透の頭を撫でて、聡さんは満足そうに笑った。
僕たちのブーケ談義はともかくとして、今日は本当に良い式だったと思う。
参加者の一人として、願わくばあの二人にはずっと幸せでいてほしい。
そんな風に、心から素直に言える。
いつから僕はこんなにも穏やかな気持ちになれたんだろう。
それはきっと、見えないバトンをもらったからだ。
今日もまた、こうして。
気付かぬうちに手に入れた物のありがたみを、僕は噛みしめている。