異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-37
戻ってきた時、エルヴァースはふて腐れていた。
「ただいま」
ジュリアスを見て、深花は微笑む。
「説得はまあまあ成功、って所かな。少なくとも、表面上は引っ込めてくれるって」
こんな短期間で強硬な主義主張を撤回させるに至ったとは、どんな手段を使ったのか。
三人の注目を浴びる中、深花はセイルファウトに向けて頭を下げる。
「奥様のお話のおかげで、彼を説得できました。ありがとうございました」
「……母が平民の出だなんて、知らなかった」
ふて腐れたまま、エルヴァースが呟く。
「僕は自分に流れる血に誇りを持っている。けど、知らぬ間にその半分を穢していた……少し、考えたい事ができました。その間、貴族優先主義は引っ込めておきます」
「……母が平民出身?」
その口調からして、ジュリアスも知らなかったらしい。
「今は大公爵家として持ち上げられているが、元をたどれば我が家も平民だ。母が平民出身などたいして重要な事ではないから、お前達には話していなかったな」
「確かに重要じゃあないな」
セイルファウトの言葉に肩をすくめて、ジュリアスはあっさり納得する。
犯罪者と結婚した過去の当主と比べたら、平民と結婚した父親など霞んでしまう。
母の素性を知ろうと思わなかったのは、自分なのだし。
「では、いいな?」
セイルファウトは兄弟の顔を眺め、尋ねる。
「生誕日には、二人の婚約発表をする」
「……へ!?」
エルヴァースとリュクティスはもう結婚しているから、残っているのは自分とジュリアスだ。
「ちょっと待っ……!」
「お前自分で言ってたろうが。私なんてミルカを辞める事になったらその後はどこにも行く当てなんてないし、構わないと言えば構わないけどねぇって。行く当てがないなら、俺の隣に永久就職しとけ」
「いや、あの……!」
「それとも、俺が夫じゃ不満か?」
「そうじゃなくってぇ……!」
「不満がないなら決まりだな」
なんでこんなに迅速に物事が進むのかと、深花は呆然とするしかなかった。
「……なんで生誕日なの」
せめてもと、そう呟く。
生誕日は生誕節の中でも極め付けに重要な日……キリスト教のクリスマスと同義語だ。
四精霊はこの日に生まれたとされる、宗教上の至聖な日である。
「決まってんだろ」
ジュリアスが、にっと笑う。
「生誕日は、俺の誕生日なんだ」