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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド・メイヴ-1

「メナ……ファ?」
 信じられないといった顔で、彼は呟いた。
「ジュリアス様……」
 客商売の対人スキルがそうさせるのか、メナファは動揺を隠して微笑んだ。
「お久しゅうございます」
「メナファ……」
「詳しいお話は後ほど、お暇な時にでも伺わせていただきますわ。今はお引き取り下さいませ」
 何か言いかけたジュリアスだったが、唇を噛み締めて背を向けた。
「メナファさ……」
 同じく何か言いかけた深花を黒星の背に乗せ、大股に歩き始める。
「……さようなら、ジュリアス様」


 そして、年明け。
「ティトーさぁん!」
 王城の馬車留めまで一行を迎えに出てきてくれたティトーに向かって、深花は歓声とともに抱き着いていた。
「久しぶり……もうちょっと離れてくれれば、俺的にベストかな」
 優しく深花を抱き留めてから、ティトーはやんわり体を引き離す。
「後ろの大魔神に差し出せるほど、俺の命は安くないんでね」
 般若も怖じ気づくような形相のジュリアスが、馬車から降りてくる。
「いいんです!もう知りませんから!」
 深花は振り返ると、べっと舌を出してからそっぽを向いた。
 完全に拗ねているのを見て、ティトーは驚く。
 心優しいこの娘の機嫌をこれほど損ねてしまうとは、怒りに任せて何を仕出かしたんだと思う。
 同時に好奇心がうずうずして止まらず、ティトーはこれみよがしに深花の肩を抱き寄せた。
「ここは寒い。ユートバルトも君に会いたがっていたし、暖かい部屋でお茶でも飲みながら色々聞かせてもらおうか……こわぁいお兄さんはほっといて」
「はい」
 二人が連れだって歩いていくのを見たジュリアスは、思わず一歩踏み出しかけた。
 もう一度振り返った深花が舌を突き出してこちらを威嚇するのを見るに及んで、ようやく諦める。
「ったく……そんなに怒る事か!?」


 事のあらましを、深花はユートバルトとティトーに語った。
 大公爵公子としてジュリアスが復帰するまでの、自分が知る限りの経緯。
 あそこの親子に、嵌められたとしか思えないやり取り。
 それからは生誕日当日まで戻ってきてくれた長男の恋人としてご機嫌伺いに引きも切らずにやって来る人間を出迎えてもてなし、ジュリアス十九歳の誕生日を兼ねたパーティーでは集まった面々へ息子の婚約者としてセイルファウトに紹介されてしまい、正式に婚約を履行する運びになってしまったのだ。
「ぜ・ん・ぶ!私はなぁんにも関与してないんですよ!?ジュリアスとの付き合いをようやく実感し始めた所でいきなりそんな風に祭り上げられて、誰が喜べますか!」
 憤慨しながらお茶を飲んでいる深花を見て、従兄弟は顔を見合わせる。
「あー、一ついいかな?」
 やや引き攣った笑みを浮かべ、ユートバルトは言った。
「元いた世界ではそうでないみたいだけど、ここじゃあ恋愛関係と結婚関係は非常に近しい間柄にある。私のように十年もぐずぐずしていた方が異質なんだ……そこは理解して欲しいな」
「猊下は個人の資質を見極め、あまり無理を言わない方だ」
 肩をすくめて、ティトーは言う。
「あいつと結婚しろと焚き付けてるのも、君なら不足なしと認めているからさ。名誉な事だと言える……個人的には全く意に染まないみたいだけどな」
 大公爵の子供達のいさかいに彼女が突っ込んでいった途端、兄弟間の不和が解消してしまった。
 彼女は、天然にして敏腕のネゴシエーターだ。
 人の心の襞の中へするりと入り込み、優しく包んで解きほぐしてしまう。
 評価されづらいその才に従兄がひそかに着目している事を、ティトーは誇らしい思いで見つめていた。


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