異界幻想ゼヴ・ヒリャルロアド-29
抱えていた体を、ジュリアスはベッドの上に放り出した。
「きゃっ」
小さな悲鳴を聞きながら、ジュリアスは羽織っていた防寒着を脱ぐ。
紆余曲折はあったがとにもかくにも深花を家まで連れ戻し、寝ずに待っていたセイルファウトへ簡単に報告を済ませ、今は自分のベッドに面倒臭い生き物を投げ出した所、というわけだ。
本当に面倒臭いし、手がかかるし、愛おしい生き物だ。
ベッドに落ちた際の姿勢のままで横を向き、落ち着かなげに視線を動かしている女にジュリアスはじっと視線を注ぐ。
目を合わせないのは血迷って逃げ出した事を後悔しているせいか、それともこれから何をされるのかと怯えているせいか。
防寒着を脱ぎ終わると、ジュリアスは暖炉に薪を追加した。
薪の跳ねる音がする度に、深花がびくびくと震えている。
寝室に入ってから、自分は一言も発していない。
彼女にかかっているプレッシャーは、相当なものだろう。
「深花」
ようやく声をかけると、深花は大きく震えてこちらの様子を伺ってきた。
「……俺はお前でなくエルヴァースに対して怒ってる。そこは理解しろ」
「ジュリアス……」
近づいて、自分の名を呼んだ唇に指を触れさせる。
指に吸い付いてくる格別の柔らかさは健在で、彼は口許を綻ばせた。
「ただ、約束を破った罰は受けてもらう。異論はないな?」
「……うん」
この体勢からして、避けてきた関係を復活させる気なのは想像に難くない。
約束を破ってしまった罰なのだからジュリアスが何をしても受け入れるつもりだし、彼が望むなら何でもするつもりだ。
「いい子だ」
ジュリアスは親指を、唇に割り込ませた。
「舐めろ」
言われるまま、深花は指に舌を絡めた。
骨の浮き出た大きな指に口蓋を張り付かせ、爪からゆっくりと舐めていく。
残りの指は顎にやって顔を支えてやりながら、一生懸命指を吸う深花の表情を楽しんだ。
「ふ……」
しばらく舐めさせてから指を引き抜けば、たっぷり絡められた唾液がつぅっと伸びて途切れる。
目を閉じて少し乱れた呼吸を整えながら、深花は耳で彼の様子を伺った。
音と気配から察するにジュリアスは服を脱ぎ、ベッドに上がって自分の傍へ来たらしい。
「むぐ」
目を開けて確認するより先に、唇が奪われた。
唇をこじ開けて、熱い舌が侵入してくる。
深花は手を伸ばし、男の首に縋り付いた。
華奢な体を抱き締めながら、ジュリアスは舌で口腔をじっくり探索する。
指を舐めさせたせいか、少し呼吸のテンポが速い。
「んぐ……ん……!」
必死さを感じさせる表情で深花はキスを受け入れているが、ちょっと苦しそうだ。
それはそうだろう、と彼は思う。
いつものように、深花に合わせて優しいキスをしているわけではない。
優しいだけなら、血迷って逃げ出してしまった事に対する罰にならない。
家からいなくなったと知った時の、足元の地面が抜けたような衝撃。
あれを考えたら、体にたっぷり思い知らせてやらねばならないと思う。
そうすれば、今後は自分の傍から逃げ出そうなんて馬鹿を考えつく事はなくなるだろう。
「んんうぅぅぅ……!」
とうとう耐えられなくなったのか、深花が首を振って嫌がり始めた。
ジュリアスは唇を離し、深花に呼吸させる。