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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-95

第三七話 《変後暦四二四年三月五日》


 レアムの街を進む、アルファの部隊。
先頭にバフォール、遅れて左右に展開するようにアレクとグリッドのアーゼン達。
後列にはベルゼビュールと、残る一機のアーゼンがついている。トレーラーを、五角形に囲むような隊列だ。全機それぞれ受け持った方向を見張りながら、進んでいる。
現在地は、まだ居住区。ワーカーは三階建ての民家より多少小さい位の高さなので、それより小さい無人機が隠れるスペースはいくらでもある。
しかし……
『……何もないな…………』
 ぽつりと、グリッドが呟いた。戦闘地域に入ってもうかなり経つのにも関わらず、襲撃も何もない。このまま何も無ければ半日かからずに都市の中心部に辿り着くのだが、何も無さ過ぎて気味が悪い。
『おい、先行してる奴らから連絡は?』
 アレクが、アルファに尋ねる。
『……今の所は、何も……』
 やや戸惑った感じで答えるアルファ。全員、何かの気味悪さを感じていたのだろう。
『もう陽動が始まってる筈だから、予想外にそれが上手くいっているのかも……?』
 続けて出した希望的観測にも、エリックは素直に賛同する気にならなかった。
先ほどからしている嫌な予感が、楽観的な思考を妨げているのだ。
「……だと良いがな…」
 呟いた言葉は通信に乗る事も無かったらしく、誰にも聞きとがめられる事無く消えた。

 前進を続けると、ビルもちらほらと姿を見せるようになってきた。
地面には薄く、恐らくナノマシンであろう白い粉が降りかかっている。
『……』
 鋭くバフォールが手で合図し、隊列は前進を止めた。
「……戦闘の跡……まだ新しい……」
 バフォールに倣って周りを見渡すと、白い粉がかき乱されたような跡があったり、建物が破壊されていたり。よく見れば、まだ煙の立っている焦げ跡もある。
戦闘があってまだ間もないようだ。
「……それにしては…」
 戦闘があったのなら、無人機かワーカーが転がっていてもおかしくない。
むしろ、何も無い方が不審だ。痕跡だけはしっかりと残っているのだから。
「何故……残骸が無い…」
 呟きながら、誰かが目的を持って残骸を隠したというのが妥当だろうと推測する。
ならば、誰が……エリックが一つの可能性を思いついた時…
『こちら先行偵察隊、異常無し』
 通信が入る。異常を感じた時点で、アルファが先行部隊に確認していたのだろう。
思わずエリックは胸を撫で下ろす。
『……』
『問題無い。前進を続けろ』
 小規模な戦闘があったが、問題ないと言う事なのだろう。そうエリックは解釈する。
『………』
 アルファも同じ見解らしく、腕の合図で隊列に再び前進を指示する。
「……しかし、これは新機能のテストどころじゃないようだが?」
 問題なさそうだと判断したエリックは、ベルゼビュールの歩行は続けたままアリシアのトレーラーへと個人回線を開く。少しの無駄話なら、問題ないだろう。
「…………ッ…………ん…も…………い……ッ…」
「?」
 トレーラーまでは、大した距離もない。それがここまで通信に支障が出るという事は、電波障害なのだろうか。
とすると、先ほどアルファが腕で指示した時も、本当は声を出していたのかも知れない。
それ以前に先行偵察隊への通信も、隊の全員に聞こえていた筈なのだろう。
だがこれほどまで酷い電波障害が起こっていたのなら、何故先行部隊からの通信は、あんんなにはっきりと聞こえたのか。その事に思い当たり、エリックはハッとする。


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