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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-76

「待たせたな、これで大丈夫だと思う」
 ワーカーを森に隠し、遠くに見えるペーチノーイルの街を臨むX2とカイルの許に、エリックが街の方から歩いて来た。手には大きめの袋を提げている。
「お〜、待った待った〜」
 カイルが、待ちくたびれたとばかりに片手を上げて見せた。X2はその横で、なんらアクションを起こす事もなく、エリックを見ている。
もともと軍用のパイロットスーツを着ていなかったエリックが、カイルとX2の分の服を調達したのである。といっても盗んだ訳ではない。
基より贅沢する性分でも無かった為、エリックのレアクスバンク(ルゥンサイトに本社を置く銀行で、データの機密性が高く素性を問わず預金が出来ることから、今や世界中の預金を預かっている)の預金には多少余裕があったのだ。
「着替えたら街のバスに乗って中央駅まで向かうか」
「了解」
 エリックが言い、服を渡した途端。X2はその場で、ツナギ風になっているパイロットスーツのジッパーを下ろす。
「ちょ、ちょっと待て!」
 続いて片袖に手をかけるX2に、慌ててストップをかけるエリック。カイルは気にもせず、着替え始めている。意外と達観しているようだ。
「…どうした?」
 パイロットスーツの下は薄手のシャツとショーツだけという格好だが、X2が気にする様子は無い。傭兵時代にローラの着替えなら腐るほど見たが、なまじクリスと瓜二つなだけにエリックは戸惑ってしまう。そこら辺は微妙な男心なのである。
「おやおや?エリック君は意外とウブなのかな〜?」
 カイルが、ここぞとばかりに冷やかしてくる。
「やかましい…」
(…戦いと関係ない所で生きて行くなら、こういう所も教育しないと駄目なんだろうな…)
 カイルの冷やかしに頭を抱えながらも、エリックは心中で複雑な思いを抱いた。
できる事ならX2には、戦いとは無縁の生活を送ってもらいたいのだ。
(……こんな事を思うのは傲慢なのかも知れないが……)
 軽くため息をつくとエリックはX2に背中を向けて木陰に隠れ、自らもパイロットスーツから普通の服に着替え始める。
「?」
 X2はそんなエリックに、訳が判らないというような視線を送るのであった。


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