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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-75

第二八話 《変後暦四二四年二月二三日》


 空は未だ暗いが、空の向こうはほんの微かに明るい。
そんな時間。エリックはX2を起こし、今後の事を検討していた。
「これからの事だが……まず、ペーチノーイルまで行って、そこからルゥンサイトに向かおうと思う」
 検討と言ってもX2はアテなどなく、カイルも同様なので、エリックの計画を話すだけだが。…ペーチノーイルからルゥンサイトへ…昔、クリスと行く筈だった行程だ。
現地点からペーチノーイルまでは西に三〇キロ。うまく行けば日が昇りきる前につける。
「カイルは、レイアーゼに乗せられるか?」
 ベルゼビュールに乗せても良いのだが、戦闘になった場合に運動性の高いベルゼビュールでは、コクピットシート外の搭乗は非常に危険だ。
「問題無い」
「そうか。ならすぐに出発だ。できれば明るくなる前に警備網を抜けておきたいからな」
 X2の返事を聞いてエリックは締めくり、そのままベルゼビュールのコクピットへ。
X2とカイルもレイアーゼへと素早く乗り込む。
程なくして立ち上がる二機のワーカー。片方のレイアーゼはここに乗り捨てである。
「おぅし、それじゃあ出発進行っ!」
「……邪魔だ」
 ベルゼビュールのコクピットに、スピーカーから響くカイルとX2の声。恐らくカイルは、レイアーゼのコクピットシート周りにいるのだろう。操縦しているX2の近くで腕を振り上げて、煙たがられている様子が目に浮かんでしまう。
「まったく……」
思わず苦笑を浮かべながら、エリックはペダルを踏み込んだ。

 二機が警備線にたどり着いたのは、出発して間も無くだった。
森が途切れ、平坦な平原に一本の街道が横たわっている。
そして平原の向こうには、なだらかな丘陵。更に向こうには再び森が広がっている筈だ。
「走るぞ」
「了解」
 エリックはベルゼビュールを走らせ、一気に平原を突っ切る事にした。
いくら警戒しようとこの平原を横断している間は隠れる場所も無いのだから、手早く抜けてしまうに限るのだ。
ペダルを操作しながら左右のモニタに目を配り、敵が居ないかを確認する事も忘れない。
「……巡回のワーカーは居ないようだな」
 昨日の戦闘に兵員を割いたからだろう。戦闘になるかも知れないと思っていただけに拍子抜けしてしまうが、とりあえずは好都合である。二機はそのまま前進を続ける。
「ん〜〜…せっかく俺の華麗なテクを見せてやろうと思ったのになぁ〜」
「操縦しているのは私だ」
 さして残念そうでもなく言うカイルに、X2がさりげなくツッコミを入れる。
そして二機が無事に平原を抜け、丘陵の頂上へ辿り着いたその時。
「伏せろ、何か来る」
 エリックは短く言って、越えた丘陵に身を隠すようにベルゼビュールを伏せさせる。
後続のレイアーゼは、ベルゼビュールの隣に移動しつつそれに習う。
「ナビアの連隊…?……巡回か?」
 今まで走ってきた平原を振り返るベルゼビュール。
その視界の右方から、ナビアのものと思われる連隊が現れた。
五台のトレーラーが街道に連なり、護衛らしき十機のワーカーがそれを取り巻いている。
連隊は丘の裏に隠れているベルゼビュールに気付く事も無く、左の方…北へと向かう。
「巡回にしては数が多い上に、速度が速い。何処かへ移動しているのだろう」
「……そうだな。まぁ、関わらずに済みそうだ。奴らが行ったら移動を再開しよう」
 連隊の行方も気になったが、無駄な争いは避けるに限る。
二機は連隊が視界から消えるのを確認し、移動を再開した。
そのまま森に入り、歩き続ける事数時間。
森が二機の姿を覆い隠してくれた為戦闘が起こる事も無く、エリック達はペーチノーイルの街付近まで到達した。


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