『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-74
そう。X2と行動を共にする事は、クリスを風化させる事と同義だ。
クリスを想うのなら、X2と早々に離れるべきだと、エリック自身判っている。
「それでも、コイツを連れ出したのは俺だ。此処で放り出すなんて事は…」
自分には責任があるのだ。カイルに諭されたからといって、どうにもならない。
「責任ねぇ…立派な事だけど、そんな義務感で一緒に居られても迷惑かもな?」
からかうような、カイルの言葉。X2と共に居る事を否定されているようで、不愉快な気分になるのを、エリックは自覚した。
「………何が言いたい…?」
苛立って、エリックは尋ねる。軽薄そうなカイルの様子が、苛立ちを助長するように思えて、カイルの方から視線を逸らした。
「お前はお前のしたいようにしろって事さ」
苛立った途端浴びせられた言葉。相変わらずカルい口調だったが、しっかりとした響きが芯にある。まるで、X2に対して自分自身が言った台詞のような、カイルの言葉。
苛立っていたエリックは、はっとしたようにカイルを見た。
「………お前………」
思わず呟いたエリックに向かって、カイルは人差し指をたて、ウインクしてみせる。
キラリと、白い歯も光っていたかも知れない。
「…ふっ……」
その仕草が妙にハマっていて、吹き出すエリック。
「お前…やっぱりバカだろ…」
穏やかな微笑を浮かべ、エリックは言った。
いい具合に気が抜けて、ラクになった感じがする。
「最高って言ってくれい」
『にっしっし』といった感じに笑うカイル。
「はいはい、最高だよ…これで満足か?」
エリックは微苦笑のような表情を浮かべてそこまで言って、顔を伏せる。
「おう、満足満足。んで、お前はどうしたいんだ?」
静かに笑って、尋ねてくるカイルの声。
いつかは決めなければならないのなら、早い方が良い。
自分はどうしたいのか。エリックはそれを考える。
X2の事は、責任云々がなくても気に入っている事は事実だ。先ほどカイルの言葉に苛立ったのは、自分自身、X2と離れたくないと思っている証拠ではないのか?
「そろそろ、今とか未来に目を向けるべき…なのかな」
問いかけるでもなく、エリックは呟く。
クリスとX2を一緒くたに考えるのが、正しくない事も判っている。
「………」
カイルは応えるでもなく、ただエリックの言葉を待っている。
確かに、答えを言葉にする事が、エリックには必要なのかもしれない。
「俺は………」
クリスとの思い出、これからを歩むX2の手助け。どちらを選ぶのか。
カイルの質問は、端的に言ってしまえばその二択だ。
「…………」
エリックの口から応えは紡ぎ出された。それを聞いたカイルは、静かに頷く。
「そっか」
一言。それがカイルの、エリックの答えに対する感想。
だがその一言以外、必要無いともいえた。
「……間違って…ないと思う」
自分の気持を確認するように、エリックは言った。
「…そうかもな」
カイルはただそれだけ言って、空を見上げた。
エリックも、それにつられるように上を見る。
星は明るく、夜の闇は深く。まだ朝は遠そうだった。