『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-72
第二七話 《変後暦四二四年二月二二日》
「ふぅ………」
ため息一つついて、地面に目を落とすエリック。
エリックは映像を見た後、休憩を提案。X2もそれに同意し、休憩をとっていた。
なんだかんだで、訓練に戦闘と休む暇が無かったのだ。疲れていない訳が無い。
それはX2も同じだろうし、カイルはもともと無理をさせられる状態ではない。
(色々…あるな……)
本当に、考える事は色々あった。X2の事、カイルの事、これからの事、そしてレイヴァリーの映像に映し出されていたもの……
「……」
と、隣に感じた空気の動き。エリックの横に、X2が腰を下ろしていた。
「…………」
エリックはX2に目をやったが、かける言葉もなく、視線を逸らした。
その先に居たカイルは、レイアーゼに寄りかかって座り、じっとしている。
エリックが休めと言ったからだろうか?
「……?」
カイルに視線を向けていたエリックの、横に生まれる質量と温度。
X2が、身を寄せて来たのだ。
「どうした?」
なるべくそっけない口調で、聞いてみるエリック。
「…私がどうなりたいか、答えは出ないが…」
エリックの方にちらりと視線を向けて、X2は答える。
「今はただ、こうしていたい。それだけだ」
「…そうか」
それ以上何を言うでも無く視線を逸らし、エリックはX2の好きにさせておく。
ずっと前に感じたクリスの温もりを思い出そうとしたが、記憶は霞のように不確かだ。
少し前までは、何も風化する事無く覚えていられたのに。
X2の存在が、クリスを滲ませてしまう。そう考えるとX2に対して憎悪に近いものを覚えるが、それは相反する感情も内包している。何より、X2を連れ出したのは自分だ。
そんな複雑な感情を抱え、再びX2へと視線を遣るエリック。
「……」
穏やかな寝顔。いつの間に寝たのだろうと思うが、休息は取れる時に取っておくに限る。
起こしたりはせず、そのままにしておく。
ただ、それ以上寝顔を見ている事はできず、星の瞬く空を見上げた。明日は晴れだろう。
そんな時。
「ったく…エリック?」
いきなり聞こえた声。しかし何故か、エリックは驚く事も無くその声を受け止めていた。
考える事がありすぎて、思考が麻痺していたのかも知れない。
「……正気に、戻ったのか?」
声の主…エリックの傍に来ていたカイルに、静かな驚きを含んだ声で、問いかける。
「…ん。クスリの効果も切れたみたいだ…ま〜だ頭ぐらぐらすっけどなぁ〜……」
懐かしい、カルい響きの、カイルの声。
「記憶は、はっきりしてるのか?」
ふと疑問に思った事を、聞いてみる。
「ん〜〜?とりあえず、覚えちゃいるさ。ただワケ判んなくなってただけだし〜」
にこやかに、重い話をする。まるでアルファのようだ。
なんとなくアルファの顔を思い出したが、胸の内にしまいこむ事にする。
「っていうか、俺はお前の方が気になるんだけどな?なんだって、レイヴァリーなんかに居たんだよ?ミーシャとかどうしてる?元気か?」
「……ん……」
尋ねられ、エリックは暫し口ごもる。色々ありすぎて話すのも面倒な気もしたが、誰かに聞いても貰いたいというのが、エリックの正直な感想だ。
「……聞いて貰って良いか?」
暫しの逡巡の後、重い口を開くエリック。
「マジな話か〜?まぁ、どんとこいや!お兄さんに話してみ!?」
飽くまでも軽い調子のカイル。そんなカイルに対し、エリックは苦笑で応える。
つくづく、悩む事が馬鹿馬鹿しく思えてしまったのだ。
「…それじゃ、聞いてくれ。………事の発端は…そうだな、俺達の初出撃の日だった…」
…………