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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-70

第二六話 《変後暦四二四年二月二二日》


 日も暮れた頃。戦場から遠く離れた森…南側と違って、変後林である。
ベルゼビュールと二機のレイアーゼが、森の木々に隠れるように座している。
その三機に囲まれるようにして、立つエリック。ワーカーのライトを、明かりにしている。
その近くには、カイルが何をするでもなく座っている。
そしてX2は先ほどから、ベルゼビュールの上腕部点検口に上半身を突っ込んでいる。
そんなX2の姿を見ていて、エリックの脳裏にはクリスの姿が思い浮かぶ。
ただ、思い浮かんだそれがクリスなのかX2なのか、エリックには思い出せない。
写真でもあれば、少しは違ったのかも知れない。…激しい戦闘から生き残ったは良いが、こうして落ち着くと、また考え事が頭の中を堂々巡りに駆け回る。
それを少しでも追い払いたくて、エリックはX2に声をかけた。
「……どうだ……?」
 三人はレイヴァリーから六キロ西の、警備網一キロ手前まで逃げ延びていた。
北側と東側は荒野が続き、街道もある為、見つかる危険性が高いのだ。
「………」
 X2は黙って首を横に振る。肩口を潰されたベルゼビュールの右腕は、操作不能。
とりあえずX2に見てもらったが、やはりダメなようだ。
「ケーブルの断絶に加えて、機体独特の特殊技術。設備が必要だ」
「そうか………」
 ある程度予想していた答えだったが、実際に聞くとガックリくる。
エリックは肩を落とし、カイルへと目を遣った。
「…まだ、カイルも正常とは言い難いしな……」
 エリックが呟く声も聞こえているのか居ないのか、カイルはぼぅっと地面を眺めている。
これからの事を考えると頭が痛いが、なんとかしなくてはなるまい。
まずは包囲網を突破して……その先はどうするか。自分の助けになってくれそうな人物をエリックは記憶の中から探し出す。心当たりはそう多くない。
(傭兵組織の本部に引き取ってもらうか……)
 しかしそれでは、X2をまた戦いの中に引きずり込んでしまう。
それに今のカイルでは、切り捨てられる可能性もあった。
(あとは……)
「エリック、協力を要請する」
 いつの間にかX2機のコクピットハッチに取り付いていたX2が、声をかけて来た。
「何だ?」
 考え事を中断し、エリックは意識を現実に戻して返事をする。
「現状では二機とも機能不全…特に私の機体は脚部に異常。これからナビアの包囲網を突破する上では、不安要素だ。私の機体から、無事な腕部パーツをカイル機に装着する」
「…そんな事ができるのか?」
 仕事柄ワーカーの整備等も詳しくなっていたエリックだが、その方法は未体験だった。
普通こういう事は、設備のある場所でやる事だと思っていたのだ。
「同種機体は規格が統一されている。問題無い。ただ、ワーカーの協力が必要だ」
 X2に促され、エリックは訝しがりながらも、ベルゼビュールのコクピットに這い登る。
「腕部接続を解除する。腕を持っていろ」
 ベルゼビュールを起動させると、レイアーゼから通信。傍受されるのを警戒してか、弱出力だ。エリックはベルゼビュールを操作し、レイアーゼの腕部を支える。
「確認した。腕部接続、解除」
 ガコリと音がした。途端にベルゼビュールの腕部に負荷がかかり、重量を感じる。
「今度は、それをカイル機へ」
 通信終了と同時に、X2がコクピットを出てもう一機のレイアーゼへと移動する。
「腕部パーツ、パージ」
 X2がコクピットへ入って暫く。通信と同時に、カイル機に残っていた肩口が落下する。
そこに開いた穴へ、エリックは腕部を移動させた。
「三十センチ上。五センチ左……」
 指示に従い、細かく位置を修正。ようやっと、上手くはまり込む。
「接続を開始」
 ガチリと、しっかりはまった感のある音。
「成功だ。離して良い」
 X2の言葉を受けて外される、ベルゼビュールの手。
レイアーゼの腕は固定され、落ちる様子は無い。
一通りの動作確認の後、X2がコクピットから降りてきた。


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