『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-59
第二一話 《変後暦四二四年二月二二日》
「エリック………??」
カイルはアサルトライフルの銃身を下ろして、呆けたように言う。
エリックとしても似たようなものだ。
「カイル……」
かける言葉もなく、エリックには名を呼ぶ事しかできない。そんな沈黙が数瞬続いて。
「誰…?…敵……??殺……す………???」
呆けたような表情のまま、カイルがアサルトライフルの銃身を、再び持ち上げる。
マトモな状態には、見えなかった。
「待てっ!」
エリックの制止の声。カイルにではなく、X2に向けて。視界の隅に入ったX2の動向に気付いたのだ。既に銃口は、カイルを捉えていた。エリックは慌てて、カイルとX2の間に割って入る。X2はすんでの所で、引き金を引くのを止めた。
「?」
X2が、表情を変えずに首を傾げる。この前もあったように、『発言の意図不明。きちんと説明しろ』という事だろう。が、当然今はそんな場合でもない。
カイルは体の位置がずれたエリックに向かって、のろのろと照準を合わせようとする。
そんなカイルへとエリックは体当たりをかけて押し倒すと、カイルの顔を両手で掴んだ。
アサルトライフルがカイルの手を離れ、通路に金属音を響かせる。
そのまま、濁った焦点の定まって居ないカイルの瞳に、自身の視線を叩きこむ。
一瞬の内に、カイルを助ける方法を考えようとするが、上手くまとまらない。
「此処の区画はあと少しで破棄される……ここの角を曲がった所にゲートがあるから、そこを通って逃げろ。そうしたら、後は何処かに身を隠しておくんだ、いいなっ!?」
依然呆けたような表情のカイルに、エリックは必死に言葉を叩き込み、立ち上がらせた。
「行けっ!!」
そして、背中を叩く。予想に反して素直に、カイルは走り出す。中々の早さだ。
それに続いて、エリックも走った。
「………」
後ろからは、X2が何も言わずに着いてくる気配がする。
前方で、カイルが角を曲がった。ゲートは直ぐそこだ。
「敵かっ!?」
レイヴァリー兵の声がした。カイルが発見されたのだろう。
エリックは急いでカイルに追いつくと、走りながら拳銃を構える。
「お前は………」
カイルに照準を合わせていた兵士が、エリックに気付く。
その隙に、カイルが兵士達の前を走り抜けた。
「ちっ!!」
それに気付いた兵士が、再びカイルに照準を合わせようとする。しかし……
「全員、動くな。カイル、行けぇっ!!」
エリックが立ち止まり、隊長格と思しき兵士に銃を向け、制止した。
エリックの激を聞いているのかいないのか、カイルは止まらず走り続ける。