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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-60

「……貴様……ッ!」
 固まったまま、動けなくなる兵士達。その間に、カイルが遠ざかっていく。
それを目で追いながら、兵士達は動けない。
エリックは頭の中で、これからどうするかを思索する。
と、その瞬間。
「銃を捨てろ」
 後頭部に、冷たい感触。声で判る。X2が銃をエリックの頭に突きつけているのだ。
カイルの走っていった方向を、ちらりと見る。もうその姿は、見えなくなっていた。
もはや抵抗する意味も無いだろう。エリックは観念して、銃から手を離す。
エリックの手を離れた銃が、床に落ち。途端、兵士達が動きを取り戻した。
「くそ、アイツを追うぞっ!!X2、そいつの処分は任せたっ!」
 隊長らしき男は、そう言って即座に追跡を開始する。兵士の一人はパネルを操作し、それに続いた。閉じていくゲート。隊長らしき男が、走りながら通信機を取り出している。
エリックの目には、それらが現実感を失って見えた。起こっていた出来事が、強烈すぎて。
突然の再会、そして自分の、裏切り。衝動的な行動だとは思ったが、それで良いと思った。
自分の為にミーシャがやったように、カイルを逃がす為にやった事なのだから。
「…それで、俺はどうなるんだ?」
 やけに静かな声で、エリックはX2へと尋ねる。X2は少し銃を離す。恐らく、少し距離をとった場所に移動したのだろう。銃口を向けられている感覚を、なんとなく感じた。
そして照準を固定したまま、X2はエリックの前方へと回りこむ。
「緊急時の叛乱行為は、その場での射殺が認められている」
 半ば以上予想していた答えが、返ってくる。ぐっと、X2の腕に力が入るのが、エリックの目にはいやにはっきりと見えた。何故か、とても静かな気持だった。
「そうか……」
 そっと目を閉じ、終わりの瞬間を待つ。ミーシャやルキス、レイチェが繋いでくれた今までが、これで終わる。命を繋いでくれた者達の為、生きようと努力してきた。
それでも親友の為に使うのなら、惜しくは無い。
恐怖は、不思議と無かった。むしろ、これで終われるという思いすら湧き起こっていた。
ふと湧いた感情に、エリックは軽く自嘲の笑みを浮かべた。
(人生の最期に、何を考えてんだか……そういえば……カイルは無事逃げられたか…?)
 カイルの事を心配しかける。
(…きっと大丈夫だ。あいつなら………)
 が、やめた。自分が無意味な死を迎えようとしているのならば、きっと悔いが残るだろうし、考えても仕方ない事だからだ。
とりあえず、X2を助ける事はできた。それだけでも十分だろう。
「…………」
 そんな事を考えながら、エリックはひたすらに最期を待った。
「…………?」
 しかし、その瞬間はなかなかやって来ない。
目を開けた瞬間に死ぬのは嫌だなとか、場違いな事を思いながら、恐る恐る目を開ける。
目を閉じる前と変わらない光景が、其処にあった。いや、一つだけ違う所がある。エリックに向けた拳銃を構えているX2の腕が、小刻みに震えていた。


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