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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-42

第十四話 《変後暦四二四年二月十八日》

 目を覚ました時、そこには真っ白い天井。
ちらつく電灯。
「………どこ…だ……?」
 ルゥンサイトで目を覚ました時と、似たような感覚。
もしかするとここはルゥンサイトで、気を失う前の事は夢の中の事だったのではないか。
そんな気になってくる。
「ここはレイヴァリーの医務室だよ、傭兵さん」
 と、いきなり声をかけられた。身を起こして見れば、そこには白衣を着た中年の男。
広い部屋。周りには沢山のベッド。彼は恐らく此処の担当医だろう。
彼はエリックから視線を外し、中断していたらしき患者の診断を続ける。
「そうか……」
 静かに、エリックはうな垂れる。
「夢じゃ…無かったんだな………」
 エリックは、また人を守れなかった。
レイチェは、自分が守ってやらなければならなかったのに。
「くそぉっ!!」
 思い切り、拳を振り下ろす。
しかし拳は、柔らかいベッドに沈み込んだだけで、何の手応えも返してはくれない。
「まぁ、君にも色々あったんだろうね」
 患者の診断が終わったらしく、医師がエリックの許へと歩み寄ってくる。
「でも良かったよ。君が此処に運び込まれた時は、もっと回復に時間がかかると思ってたから。健康は何にも勝る宝だよ」
 ぽんぽんとエリックの肩を叩きつつ、医師は言う。
その言葉で、エリックはふと思い出す。
「そういえば…俺を此処まで運んできたのは……?」
「さあ?カゲトラに聞いてみて。僕には、『彼等』を判別する事なんてできないからね」
 エリックの質問に不可思議な言葉で答え、医師はエリックに背を向け、歩み去る。
言葉の意味を考えているエリックに、医師は振り向きざま、口を開く。
「そうそう、君のお仲間なら、この先の突き当たりにある司令室に集まってる筈だよ。カゲトラも其処だろうから、聞いてみるといい。特徴的な奴だし、会えば判ると思う」
 その言葉を最後に、医師は扉を開けて今度こそ廊下へと出て行ってしまった。
「…………」
 暫く医師が出て行った扉を眺めていたエリックだったが、やがて、思い出したようにベッドから出る。身体が軽い。疲労はもはや、無かった。
「………行くか……」
 誰に告げるでもなく言うと、エリックは廊下へと歩き出す。
迷いなどは、身体を動かしていれば考えなくて済む。
思考の停滞と思考の放棄。そのどちらかしか残されて居ないのなら、せめて停滞した思考を循環させる何かが訪れるまで、何も考えない方が良い。

 「来たか」
 司令室に入ってきたエリックを一瞥して言うと、隊長はまた話に戻る。
司令室といっても仮設的なもので、モニターや地図などを引っ張り込んであるだけだ。
そしてその中、大きい円卓を囲んで、傭兵団のメンバーと研究員らしき者達が話し合っていた。軍人らしき人物も居たが、話には参加していない。
ローラやシヴ、ヲルグなどは入ってきたエリックに何か言いたげだったが、話を中断させないためだろう。黙っていた。
「で、その新型兵器とやらが完成するのはいつなんだ?」
 研究員らしき黒髪の男に、隊長が尋ねている。
「ん………そうでゴザルな……ヌシ等の持ってきた物資が届いたからには、遅くとも五日以内には仕上げるでゴザルよ」
 黒髪を後ろで纏め、ポニーテールの変形にしたようなその中年の男は、無精ひげを撫でつけながら言う。『ゴザル』というのは、彼の口癖?なのだろうか。なんとなくエリックは、この男が医師の言っていた『カゲトラ』なのだろうと思う。
「そうか……この前は到着していきなり戦闘だったからな。奴らの襲撃はどの位の頻度で起こる?」
 どうやら傭兵団が到着してすぐ、敵襲があったらしい。
今頃会議のようなものをやっているのは、敵襲が終わって暫く休んだからだろう。
「そうでゴザルな…相手も馬鹿ではないから、一定の周期では攻めて来ぬよ。一週間以上無い日もあれば、一日と置かず攻めてくる場合もあるでゴザル」
「つまりは、予測不能…という事か………」
 肩をすくめ、隊長はやれやれといった感じで言う。
その話の内容で、大体の事は把握できる。
「まぁ、先日も見たとおり、ちょっとやそっとで此処は落ちぬ。ヌシ等には、万が一施設内部まで攻め込まれた場合の、守りとなって欲しいでゴザルよ」
 カラカラと笑い、男は言う。何処の生まれかは知らないが、少なくともジュマリア生まれではないだろう。
「ふむ……了解した。今日の所は、聞きたい事はこのくらいだな」
「そうでゴザルか。なら、これでお開きにするでゴザルよ」
 男が言って、話はそこで終わった。


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