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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-41

「エリックさん…」
 ふと、レイチェが口を開く。
「……ん…!?」
 エリックが注意を向けた瞬間。
レイチェは、思い切りエリックの腕から飛び降りた。
「なっ………!?」
 驚き、エリックはすぐ引き返そうとした。が、その動きが止まる。
レイチェが、エリックに向けてハンドマシンガンを構えていた。
「レイチェ!?」
「行って下さい!このままじゃ、二人とも助からない!」
 必死の面持ちで、レイチェは叫んだ。その頬に流れるのは、涙。
その姿に、思わずかつてのミーシャがダブる。
「だが……」
「行って下さい!!」
 戸惑うエリックを、一喝する。
「早く……!…また、後で…!」
 近づいてくる敵兵のライト。
「…………すまないっ!」
 一瞬躊躇した後、エリックは再び走り出す。
レイチェも自分も、無駄死にする訳にはいかなかった。
後ろで、レイチェがマガジンを抜く音がする。
恐らくは、弾薬等を利用した即席爆弾を作る気なのだろう。
専用の固体火薬とグリスがハンドマシンガンには装備されており、マガジンをグリスで固体火薬に貼り付けるだけで製作できる爆弾だ。
火薬についているキャップを外して三秒で爆発し、マガジン内の弾薬をばら撒いて三十メートル以内の人間に致命傷を負わせる代物である。このような森では、木に阻まれてその真価は発揮できないであろうが、敵を引きつけて使えば十分強力である。
「………」
 レイチェの声が、聞こえたような気がしたが、真偽の程はエリックには判断できない。
………そして走るエリックの後方で、銃声と爆音が木霊する。
涙が一粒、エリックの頬を離れ、宙に消えた。

 どれ位走っただろうか。
ひたすらに、森を走り続けたような気がする。
時間の感覚もないが、いつの間にか辺りが明るくなっていた。
「……はっ……はっ………はっ……」
 体力に限界が来たようだ。身体が言う事を利かず、エリックは思わず倒れこむ。
「はっ…………はっ………」
 心も身体も、空っぽだった。
いや、空っぽというのは正しくない。虚無で、空虚感で、疲労で、敗北感で、無力感で…心も身体も満たされていた。心身ともに疲れ果て、もう動けない。
と、虚ろに開けた目に、影が差した。どうやら、人のようだ。
追っ手かもしれない。
だが、そういう事を考える事すら、今のエリックにはできない。
「………エリック…?」
 名前が呼ばれた。
いや、尋ねられたのだろうか。名前の部分だけしか、聞き取れない。
エリックはしかし、名前が呼ばれた事に対する疑問よりも、別の事が頭に浮かんでいた。
「……クリ…ス………?」
 エリックは、頭に浮かんだ事をそのまま口に出していた。
その傍に歩み寄って来た人物は、問いに答えず、ただ黙ってエリックを担ぎ上げる。
エリックのそれよりも数段細いと思われる腕で、意外と力持ちだ。
といってもエリックは意識朦朧で、相手の姿さえもよく確認できなかったが。
彼を担いだまま、その人物は土を踏み締め、歩いて行く。
行く手に見えてきた巨大な建物が、レイヴァリーなのだろうか。
「………」
 半分気を失いかけていた彼の意識は、そこで完全に途絶えた。


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