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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-40

「どう…したんですか?」
 エリックの様子に、レイチェが尋ねてくる。
はっとしたように、エリックはレイチェの方を向く。
「…いや、何でもない………何にせよ、お前には関係ない話だ。」
 そう言って、レイチェを突き放す。それが、今のエリックには最善の方法だった。
はっきり言えば関係のないレイチェに、重荷を背負わせる訳にはいかないのだ。
「………はい…すみません、深入りして……」
 そんなエリックの言葉に、レイチェは沈み込む。その様子に、心が痛んだ。
屈託のない笑顔を奪い去ろうとする一方で、その笑顔が消える事に酷く拒否感を感じる。
エリックは自分の心が不安定だと言うことに、改めて気付く。
「…いや、すまなかったな………」
 思わず、エリックは言葉を継ぎ足す。
「……過去を見つめる事はできるようになっても…それに振り回されて、今を見つめる事がまだできないんだな………」
 レイチェに重荷を背負わせる一歩手前で、エリックは踏みとどまる。
「『まだ』と言っても、この先にできるようになるかは判らないが……」
 自嘲気味に言って、そこでエリックはレイチェの様子に気付く。
レイチェは、真剣な眼差しでエリックを見据えていた。
「できますよ!絶対できるようになります!」
 妙に意気込んで、レイチェは言う。
その様子がおかしくて、エリックはつい吹き出してしまう。
「…そんなに意気込んで言われると何か妙な感じだが……ありがとな。」
 エリックは小さく笑って、言葉を紡ぐ。
屈託の無い笑みとはまだまだ言えないが、自然に笑う事はできたと思う。
と、エリックはある事に感付いた。
「え…?い、いえ……それほどでも…っ!?」
 照れたように笑うレイチェの言葉を中断し、エリックは突然彼女の傍に躍り寄る。
そしてそのまま、覆いかぶさるような態勢になった。
「エ、エリック…さん……!?」
「シッ!」
 目を白黒させるレイチェに、エリックが鋭く制止の声をかける。
「聞こえないか……?」
 周りに視線をやりながら、静かに囁く。
耳を澄ませば、小さくではあるが人の立てる音。
「え…エリックさんの心臓の音が聞こえます……」
 戸惑ったような声で、エリックの身体の下からレイチェが言う。
「違うっ!追っ手だ!」
 その意見に大声で突っ込みそうになりながらも、エリックは静かに告げた。
そう。先程から聞こえる、木擦れの音。少し離れた場所で、複数の人間が移動している。
見れば、向こうの方でちらちらとライトの光が動いていた。
十中八九、追っ手だろう。
「えぇっ!?」
 レイチェが、大声で聞き返してくる。近くで聞いたエリックは耳がやや痛い。
だがそれより深刻なのは、ライトが一斉にエリック達二人の方を照らした事だ。
浮かび上がる二人の姿。
「居たぞっ!」
 ライトを照らしている方から、怒号にも似た声が上がる。
「行くぞっ!」
 エリックも叫び、レイチェの手を引いて立たせる。
ハンドマシンガンを乱射し、そのままレイチェの手を引きながら全速力で逃げる。
こんな夜の森ではぐれたら、合流できないだろう。
今回はレイチェが自分で走ってくれているので、少し楽だ。
後ろからも、銃声が響いてくる。
すぐ傍で、銃弾が木にめり込む音がした。
だが立ち止まっては居られない。エリック達は構わず走り続ける。
少しずつ、銃弾とライトが遠ざかっていく。
と、その時。
「うっ…!」
 レイチェがよろめいた。それを慌ててエリックが抱きとめる。
「どうしたっ!?」
「…すみません…足が……っ!」
 問うエリックに、レイチェが呻くように答える。どうやら足を挫くか何かしたらしい。
当然、もう走る事などできないだろう。
「判った!しっかり掴まってろよ!」
 エリックは叫んで、再びレイチェの身体を抱き上げる。
しかし、先程の疲労もまだ回復していない。当然逃げる速度は遅くなる。
遠ざかっていた追っ手が、距離を縮めてくる。
「く……っ!」
 後ろを振り返る事も出来ず、エリックは根性でひたすらに走る。
追い付かれるのは、時間の問題だ。
そうなれば相手はライトとマシンガン持ちで多数、こちらはハンドマシンガンのみで少数。
まず勝てはしない。


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