『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-35
…そんな彼の胸の内に関係なく、前方の巨大トレーラーは悠然と走っている。移動用とはいえ速度は遅く、それが悠然とした雰囲気を醸し出しているのかも知れない。
そしてエリック達の乗ったトレーラーは、あっさりとその横を追い越して行く。
道幅の狭い所であったら、ずっと後ろにつく事になっていたかもしれない。
「でも…何でこんな場所に…?」
訝るようにレイチェは呟くが、答えられる者がメンバーの中に居る筈も無い。
しかしレイチェの疑問ももっともで、ここはジュマリア領内なのである。
「……レイヴァリー制圧…か?」
ぼそりと、エリックは呟く。
この街道の先にある戦闘区域といったらその辺りで、他には特にこれと言ったものは無い。
方向的には首都という事も考えられるが、それなら別ルートの方が早い。
「…?でもあれって研究施設でしょ?」
不思議そうに、ローラが聞いてくる。
確かに、事情を知らなければそう思っても仕方ないだろう。
「いや……あれは最新の軍事発明品も積んでるからな。昔俺が見た時には、あれに積まれていた最新ワーカーが百五十機程のワーカーを蹴散らした。」
エリックは、当時を思い出しながら言う。
もっともあれは、アルファの特殊性があって初めて出来る事だったのだろうが。
「………マジか……?」
信じられないといった口調で、シヴが呻くように言う。
「ジュマリアの『雷神』並みよ、それって……」
ローラも、どこか憂鬱そうに言う。
もしかすると自分がそれと戦う事になるかも知れないのだ。
胸中穏やかではないだろう。レイチェも、顔色が悪い。
「ま…まぁ、元々この依頼に関しちゃ不利は承知だっただろ?それに、あれが本当にレイヴァリーに向かってると決まった訳でもないしな。」
車内の雰囲気が暗くなるのを感じ取ったのか、シヴが慌てたようにフォローを入れる。
「そ、そうですよね。大丈夫…ですよね……」
若干表情を強張らせたまま、レイチェが頷く。
さすがに、今のフォローで安心できるわけも無い。
「どうあれ、結局行くしかないだろう。今から依頼を降りる訳にはいかん。」
振り向く事も無く、隊長が場を纏める。
シヴのフォローそっちのけな発言だが、真理ではある。
結局その後暫く、車内はややダークな雰囲気が消えなかった。
…しかし同時に、ローラの愚痴も止んだのであった。