『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-142
ベルゼビュール……正確には大破したオリジナルの部品とナノマシンで構成されたレプリカのコクピットは、元と変わりないように思えた。シート等の内装はオリジナルから持ってきたのかも知れない。
『ベルゼビュールver.ナインといった所かな。乗り心地はどうだい』
シートに座った途端に、ナインからの通信。恐らく中の様子を知る為の何かが仕掛けられているのだろう。余り良い気分はしない。
「動かしてみないと判らないな。何かオリジナルと違いはあるのか?」
ベルゼビュールを起動させながら、エリックは尋ねる。通信はセットしていないが、どうせナインは聞いているだろう。
『それもそうだね。防弾装甲の材質が少々変わった事が一つ。それとサポートプログラムの入ったチップが吹き飛んでいて動作を再現できなかったから、イオンブースターが使えない。代わりにナノマシン素体と復元プログラムを入れておいたから、損傷の自動修復が可能だよ。といっても修理には電力とナノマシン素体をかなり消耗するから、余り壊しすぎないように。後で補填するのが手間になる』
「自動修復か……」
助かる事は助かるが、クリスの作った機能の代わりにナインの象徴とも言えるような機能が入っているのは気に食わない。本格的にナインの尖兵になった気分だ。
と、エリックはそこまで考えて、今更だと自嘲する。自分はとっくに、ナインの手先なのだから。やっと感覚の戻ってきた左腕だって、ナインに治療されたものだ。
『そろそろ時間だ。適当に暴れて警備の目をひきつけてくれれば良い。じゃあ頼むよ』
ナインの言葉と共に開く、貨物部の後方。それはまるで、ナインの反撃の幕を暗示しているかのようだった。