投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最初へ 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 67 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 69 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最後へ

『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-14

第五話 《変後暦四二四年二月一日》


 音も立てず、扉がスライドする。
エリックは程よく緊張した状態で、部屋の中へと滑り込んだ。
上着の内側に忍ばせておいた拳銃は、既に抜いてエリックの手の内にある。
部屋の中は薄暗く、あまり視界も利かないが、どうやら広い空間になっているようだ。
照明等は一切無く、部屋の隅にある祭壇のようなものに、蝋燭が立てられているだけだ。
加えて、とても寒い。蝋燭の温かみも、部屋全体には行き渡らない。
「……!?」
 と、話し声が聞こえた。
よく目を凝らせば、少し離れたところ…恐らく部屋の中央辺りに、二つの影が見える。
一つはさっきエリックが見た男なのだろう。手に銃を持ち、それをもう一つの影に向けている。そしてもう一つの影は、床に座っているのだろう、やけに背が低い。
「〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜。」
 座っている方が、何かを言った。不思議な言葉。
エリックには何語だかもわからないが、多分共用語ではなくルゥンサイト語なのだろう。
共用語が母国語のようなエリックにとっては、共用語以外の言葉を聞いたのは珍しい。
銃を向けられているにしては穏やかに聞こえるのは、エリックの気のせいだろうか。
「〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 逆に、銃を向けている男の方が、驚いたような、余裕の無い声をしている。
「…〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」
「〜〜ッ、〜〜〜〜〜!」
 空気が、動いた。思わず様子を見ていたエリックも、はっとなる。
男の、その引き金にかけられた指に力がこもった。
こいつは引き金を引く。直感したエリックは、思わず駆け出し、男の手を蹴り上げた。
座っている方の頭を狙っていた銃は、手と共に大きく跳ね上がる。
そして瓶のゴム栓を抜いた時のような音を立てて、銃口から天井に向かって弾を吐き出した。所謂、間一髪というやつだ。
「!?」
 驚いてエリックの方を向く男の顔に、勢いのまま掌を叩きつける。
どうやら鼻に当たったらしく、男は血を噴出しもんどりうって倒れた。
それに素早く駆け寄り、エリックは男の銃を持った手を踏みつける。
「動くな。」
 言葉が通じたかどうかは判らないが、銃を構えてエリックは言う。
男の方は、抵抗する素振りも無くただ鼻を押さえるだけである。倒されて銃を突きつけられているのだ。言葉が通じなくても十分言葉の意味は判るのだろう。
「〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜…」
 命乞いなのか悪態なのか、男が何か呟く。銃を持っていた手の力を抜き、銃を手放す。
「…すまんが、わからないな。」
 冷ややかに、エリックは言う。だが内心、少し困っていた。
二人とも言葉の通じない人だったら、どうしたものかと。
尤も今の時代共用語を身につけていない人は、人口の半分以下であるのだが。
「『判った、撃たないでくれ』と言っています。」
 突然、後ろから声をかけられた。座っていた人影が、立っていたのだ。
だがそれに対してあまり注意も払ってはいられない。
「あんた、共用語がわかるのか?」
 聞くまでも無いと思いつつ、エリックは尋ねる。勿論男から目は離さない。
「『〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜?』〜、〜〜〜〜〜〜〜〜。」
 と、人影は男に向かって話し始める。
どうやらエリックの言葉を男に向かって翻訳しているようだ。
「…訳すな。あんたに聞いてるんだ。」
 男がエリックに向かってふるふると首を振った。それを見ながら、エリックはため息混じりで人影に言う。
「『〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』〜…」
「やめろっ!」
 果てしなく会話がループする予感を感じ、思わずエリックは人影の方を降り返る。
と、途端に男が手を踏んでいたエリックの足を掴み、引き倒した。


『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最初へ 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 67 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』 69 『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前