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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-13

「……という訳だ。」
 トレーラーで待機していたエリック達に隊長が事情を説明したのは、少し前の事。
「ともかく。物資が準備できるまでは、自由時間だ。」
「へぇ…せっかくだから、みんなで街でも見てこない?私この国初めてだし〜」
 隊長が告げたところにそう言ったのは、仲間の一人であるローラだった。
エリックより少し年上の彼女は、傭兵をやっているのが勿体無いような美人である。
だが彼女について色々と知っている今となっては、傭兵が一番彼女に合っているように、エリックには思える。
「おう、面白そうだな。俺も行くぜ。ここに来るのも数年ぶりだからな。」
 意見に賛同したのは、シヴ。筋骨隆々とした、いかつい中年である。いかにも傭兵然とした風貌をしているが、趣味は意外と料理だったりする。
「そうだな。たまには息抜きも必要だ。」
「オレも行くぜ、こんなとこにいても仕方ないしな。」
 隊長も賛同し、エリックと同い年のヲルグもそれに便乗する。
「それじゃあ私も……」
 レイチェも控えめに参加し、あと残るはエリックと副リーダーのギザだ。
「…車には番が必要だ。」
 ぼそりと、ギザが言う。
トレーラーが置いてあるのはラティネアの内部だ。盗まれる確率は低い。これは誘いを断る理由付けと考えるのが妥当だろう。彼は隊長と同い年の渋い中年なのだが、人付き合いを極端に疎んでいる節がある。
エリックも人付き合いが面倒である今は、進んで団体行動をしようとは思わない。
「…俺もいい。大して興味も無いからな。」
 だから、とりあえず断っておく。
しかし。
「それじゃ、全員行くって事でいいのね〜?」
 ローラはエリック達の意思など無関係に話を進めている。
「……ちょっと待て。」
 不機嫌そうなエリックの声も、効果は無い。
「それじゃ、行くわよ〜」
「……」

…そして、今に至っているという訳だ。
ギザは結局来なかったが、それに倣えないのがエリックである。
付き合いは面倒だが、人の期待とかに逆う事は心苦しい。
基本的な部分では、以前とそう変わっていないのだ。
「…あ。」
 そこで、思い出したようにエリックは言う。
「ん?」
 怪訝そうに振り返る他の面々。
「…少し先に行っててくれ。」
 告げて、エリックは一人廊下を引き返す。
「西門を出た所で待ってるから、早めにね〜」
 ギザに逃げられた以上、エリックを逃がすつもりはないらしい。
まぁ、実際トイレに行きたかっただけなので、別に良いのだが。
……。
「ふぅ……」
 広いラティネアの中でトイレを探し用を足したエリックは、途方にくれたようにため息をついた。
「……さっきもここを通ったような……」
 そう。エリックは今、迷子になっていた。
ルゥンサイト程の大国の中枢施設であるラティネアだ。かなりの広さがあるし、占拠され難いようにだろう、通路が入り組んでいる。
そんな訳で、エリックには西門がどちらの方角にあるかすら判らなくなっていた。
「さっき来た時はここを右に行ったような……?」
 人と話すのは面倒になっても、独り言の癖は変わらないのが不思議な所である。
ともかく、エリックはひたすらに勘で進み続ける。
誰かに道を聞けばよかった。エリックは今更ながらに後悔する。
最初の方は職員達もよく見かけたのだが、道を聞かなくても大丈夫だろうとタカをくくって歩いている内に、いつの間にか人気はなくなっていた。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥…か………くしゅっ…」
 何か違う気もするが、そんな事を言いつつくしゃみを一つ。
ここの周辺は暖房が弱くなっているのか、とても冷える。
今日の外気温はマイナス十二度だと、誰かが言っていたような気もする。
「ここで凍死なんかしたら洒落にもならん…」
 呟いて、歩み足を速める。何度目かも判らない曲がり角を曲がる。
と、そこでエリックは通路にある扉の前に、人影があるのに気付いた。
「あ……」
 道を聞こうとすると、人影は扉を開けて中へと入っていってしまう。
それだけなら単なるニアミスで済むのだろう。
しかしエリックは気付いてしまっていた。
扉へ入って行った男と思しき人影の手には、サイレンサー付の銃が握られていた事に。
「………面倒な事になりそうだな…」
 さすがに見知らぬ者とはいえ、見過ごして置けるようなものではない。
一言毒づいて、エリックは人影を追って扉を開けた。


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