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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-137

「……クリスをどうするつもりなんですか?」
 続けたアルファの言葉に、エリックは少しほっとするのを感じた。アルファは別に、クリスの事をどうでも良いと思って差し出している訳ではないのだ。
ただ……
「お前には関係無い」
 ただアルファにとって、アリシアの方が大事なだけだ。そう考えた途端に、エリックの理不尽な怒りは再燃し、アルファを睨み付ける瞳と声に、怒気が混じってしまう。
「お前はクリスを差し出してアリシアを確保する。それで十分だろ」
 そう要求したのは自分自身。それを判っていながら。エリックの口をついて出たのは、辛辣な皮肉だった。それ以外にこのやりきれない感情を表現する方法はエリックには思いつかなかったし、表現せずに済ます事も考えられなかったのだ。
「……!」
 エリックの一言で、アルファの気勢が殺がれたようだった。
「アリシアを選んだんだろ。お前は」
 勢いを失ったアルファへ、更にエリックは端的な言葉を突きつけた。それはあからさまに、アルファを追い詰める姿勢だった。だが、そんな言葉を紡ぎ出すエリックの内心では。
「それは……」
 アルファは反論しかけて、口篭る。視線が、助けを求めるようにアリシアを捉えた。それはエリックの視線から逃げたようにも見える。
アリシアがどのような表情をしているのか、エリックからは見えない。だが、アリシアがアルファの助けになるような表情を作らなかった事だけは、何も言えずに居るアルファを見れば判った。
 エリックは暫く、言葉の続きを待って。
そして、諦めた。
「違う、とでも言うつもりか?」
 そう言って欲しかった。自分には思いつかない、納得できる答えが欲しかったのだと、エリックは自覚する。アルファが自分を諭してくれる事を心の何処かで期待していたのだ。
 そんな自分に対する嫌悪が、更にエリックを苛立たせて。
「言えよ!!」
 気付けば、エリックは怒鳴っていた。クリスが最後に呼んだのは誰の名前だったか。
そこまで想われていたアルファに対する嫉妬が。そこまで想われていながらクリスを軽んじるアルファへの憎悪が、エリックを支配する。
「クリスがどんな思いで戦っていたのかも知らずに」
 地下空間で、泣いていたクリス。それを抱きしめた時の体温
「クリスの未来を奪ったお前が」
 本当なら戦争から離れ、穏やかに暮らせた筈のクリス。未来を夢想していたその瞳。
「それでもクリスに想われていたお前が……!!」
 最期にアルファを呼んだクリス。その声の響き。
 その全てを自分から奪っておいて。
「クリスを捨てて他を選ぶっていうのか!!」
 エリックには許せなかった。理屈云々は関係無い。ただ許せなかった。
 クリスを引き換えにして、アルファが何かを手に入れる等認められるはずが無い。
「そんなお前に、何一つ得る資格なんてあるかぁッッ!!」
 湧起こる衝動そのままに怒鳴って、エリックはアリシアの肩を掴むと乱暴に引き寄せた。
アルファはエリックの意図を察知して銃を抜こうとするが、手をやった場所にホルスターは提がっていない。手は空を切るだけだ。即座に機転を利かせてエリックに躍り掛かろうとしたようだが、この状況では一瞬の判断ミスでも命取りだった。
「ナイン!」
 エリックの声に反応するように、トレーラーの後部機銃が作動する。
「!!」
 飛び掛ろうとしていたアルファは咄嗟に体を捻って回転しながら横へ飛び、その前方を機銃の銃弾が抉って床材の破片を撒き散らす。着地と同時に遠心力を利用して走り出すアルファを着弾が追いかけて。


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