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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-138

「……ぐ……っ!」
 アルファが格納庫にあったワーカーの影へと転がりこむ直前。機銃の銃弾がアルファの右足首を捉えてそこから先を吹き飛ばし、乳白色の液体を撒き散らした。明らかに血の色ではないそれは、アーゼンに使われている循環液と同じもの。即ち、アルファの体が既に大部分生身でない事の証明。
アルファを機銃が追い立てている間に逃走の準備をしていたエリックはその光景にアルファの不遇を思い出し、自分が何をしてしまったかを理解して。激しい自己嫌悪に眩暈を覚えた。
その時。
「エリオット!!」
 アリシアが、自身が撃たれた時などより余程悲痛な声を上げて激しく抵抗した。その抵抗で我に返ったエリックは、心身に堪えるその抵抗を、アリシアの鳩尾に拳をねじ込む事で黙らせる。
通路に続く扉から、銃声を聞きつけた兵士達のものであろう足音が聞こえてきた。
今更アリシアを解放した所で、銃撃戦の間に挟まれて死ぬだけだ。
「少し大人しくしてろ」
 もはや引き返す事はできない。そう悟って。アリシアを担ぎ上げ、CS装置をトレーラー貨物部のスロープから搬入する。それを確認したように、トレーラーが前進を始めた。
 ナインが操作しているのか、移動研究所外へのハッチが開いている。
「アリシアァァアアッ!!」
うな垂れたようなエリックの背中に、アルファの叫びが突き刺さった。
痛い。
踏み出せば、躊躇はなくなると想っていた。吹っ切れば、何も感じなくなると想っていた。そんな考えこそが自分の弱さだったのだと、エリックは痛感する。
「…………」
 貨物部扉の開閉スイッチを操作し、エリックはゆっくりと振り向く。
扉から侵入する兵士達を牽制して、機銃が掃射され。兵士達は扉の影から銃を突き出して応戦し、銃弾は閉じていく貨物部の扉を削る。
エリックは未だダメージから立ち直れないアリシアを貨物部の中へ放り込んで。CS装置とアリシアの前に出て、狙いも大して定まっていない銃弾から二人を庇うように立った。
「アルファぁぁあッッ!!」
 いつ飛んでくるか判らない銃弾にその身を晒し、閉じ行く扉の中でエリックは怒鳴る。
 逃げそうになる自分の心に、渇を入れる為に。
「全部奪ってやるッ! 手始めはこの女だッッ!! 惨たらしく死ぬ様をお前に見せ付けてやるからなッッ!!」
 もう許されようとも想えない。憎まれた方が楽だ。こんな自分の口から出てくるのは、安っぽい悪役の言葉で良い。そうエリックは想った。
「エリックさん……ッ!!」
 アルファがワーカーの影から、エリックを睨み付ける。否。睨み付けているのではなく、哀れむような瞳でエリックを見つめていた。結局、悪役を演じた分だけエリックの滑稽さが増しただけだ。
どうせなら睨み付けて罵倒の一つもしてくれたなら、どれ程楽になれただろうか。身勝手だとは知りながら、そう想わずには居られない。
その目を見ていられずにエリックが目を逸らすと同時に。
貨物部の扉が。外界からの光が。
とうとう完全に閉ざされた。
電灯の薄暗い明かりだけが、貨物部内を照らす。
「………………っ」
 トレーラーがスロープを下って外に出たのか、衝撃で貨物部内が激しく揺れる。キャスターのついたCS装置が転がり、壁にぶつかる直前に右手で止めた。
 そしてエリックは貨物部扉にもたれて、そのまま座り込む。


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