『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-115
第四五話 《変後暦四二四年三月五日》
「やっぱり地下シェルターだったか……?」
地下に降り立ったエリックは、通路と見られる空間をガンライトで照らしながら呟いた。
ガンライトに照らされ、ガスマスクの強化プラスチック越しでもなお判る程に白い通路。白色の金属でできているか塗装してあるのだろう。通路内は白一色で統一されており、鈍くライトの明かりを反射している。瓦礫が多少流れ込んでいるものの、他は特に傷があるような事もなく、整然と通路が殺風景に一本真っ直ぐに伸びていた。見通しも良く、ガンライトで照らせる範囲ならば奇襲の心配も無いようだ。といっても、奇襲をしてくるような存在も思い当たらなかったが。
通信機は先ほどから、断続的に何かの信号をキャッチしている。この通路の先が発信源とみて、まず間違いはなさそうだ。しかし……
「やたらと長いな………」
通路の長さに思わず零すと、エリックはやや緊張を解いて先へと進む。奇襲の心配も無い以上、あまり張り詰めていては体力が持たない。ただでさえ先ほどの戦闘で消耗しているのだ。
「……?」
ふと、何故かこの通路を何処かで見たような気がして、立ち止まるエリック。
「……そんな筈もない、か」
足を止めては見たものの、確かな記憶を思い出せもせず。訝しがりながらも、エリックは歩みを再開した。その瞬間。
エリックは微かな明かりが揺れるのを、通路のずっと奥の闇に見た。
「っ?」
幾分緩んでいた気持を引き締めて、エリックは即座にガンライトを消す。自分の足も見えなくなってしまったが、向こうに見える明かりのおかげで方向を失う事は無い。エリックはできるだけ静粛且つ迅速に、明かりの方へと近づいて行く。しかし大分距離が離れていたらしく、エリックが近づき切る前に、明かりはゆっくりとエリックから見て右から左へと消えて行ってしまった。奥の方に、通路が交差しているポイントでもあるらしい。
ガンライトを最低限の明かりで点けると、エリックは急いで通路が交差しているらしき地点へと向かう。近づくにつれ、なにやらモーター音や金属の擦れ合う音らしきものが聞こえてくるのにエリックは気付く。
恐らく、機械か何かが明かりを発しているという事だろう。音は途切れ途切れに、エリックの元まで届いて居る。
「……」
正直あまり進みたくない状況だが、携帯通信機に目をやれば信号の発信源は少しずつ遠ざかっている。つまりは信号の発信源は明かりを発している何かであり、悠長な事も言っていられないという事だ。エリックはやや急ぎ足で通路の交差点までたどり着くと、身を隠しながら明かりの消えていった方を覗き込んだ。
少し遠かったが、見えないほどではない。CS(コールドスリープ)装置によく似た物体についている、四角いディスプレイと思しきものが光を放っており、それを囲む複数の小さい影を照らし出していた。それらは徐々に、様子を伺うエリックから遠ざかってゆく。
光源のついたものの正体はわからないが、周りで動いているのは……
「……あの日の、四脚メカ……?」
クリスと共に地下空間に落ちた際、無数に居た小型四脚ロボットだった。ワーカーに対抗する力は皆無な為に後半気にしなくなったが、生身にはそれなりに辛い相手だ。
「……面倒だな……」
思わず呟いたエリックが改めて見てみれば、小型無人機達は光源の周りで動いているのではなく、護衛しているらしい。歩調をそろえるように、光源のついた物体と共に遠ざかっていく。
「もしかすると……」
アルファの爆破した制御装置はダミーで、こちらが本物なのだろうかと、エリックは思う。信号は小型無人機への命令で、深化されていなかったのは緊急の事だったので余裕がなかったからかもしれない。
と、エリックはナノマシン兵器に人間相手と同じような考えをしている事に気づく。が、それもあながち間違いとはいえないだろう。相手はこちらの仲間からの通信に見せかけ、通信かく乱を行ってくるような奴なのだ。
……いずれにしても、このまま見過ごす事はできない。そう結論付けるエリック。
「やるしかないか…………っ」
エリックは銃のグリップを握り締め、敵の戦力を算定する。光源に照らされた後方の小型無人機は二体、恐らく前にも同数か、それより多い小型無人機が居るだろう。あまり分の良い勝負とも言えないが、地下空間での経験から弱点はわかっている。あとはそれが強化改善されていないのを祈るだけだ。