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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-114

「あ、エリックさん……無事だったんですね…!」
 疲労の滲んだアルファの声に、エリックはため息を吐きそうになる。自分に敵意を向けている相手の生存に、アルファは心から安堵しているようだったからだ。
「俺はお前を殺すまでは死なんと言ったろう? どうでもいいから早く回収しに来い。機体が動かないんだ」
 何故か照れ臭くなり、ぶっきらぼうに半ば命令口調で告げるエリック。
「それと、制御部はきちんと爆破できたんだろうな?」
 一応確認するが、答えは聞くまでも無いとわかっていた。
「…………はい、被害は大きかったですけど、なんとか……」
 いきなり声のトーンを落とすアルファに疑問を感じるエリックだったが、直ぐに誰かが死んだのだろうと推測した。
「そうか。それじゃあ座標データを送る」
 事情に気付いたとしても、エリックには誰だと問う気も、ましてアルファを励ますつもりなど毛頭無かった。そこまでする義理…はあるかも知れないが、元々アルファは敵なのだ。それに、アルファに自分の慰めなど要らないだろうとも思う。
「……はい、すぐに迎えに行きます」
「あぁ、なるべく早くな」
 アルファのしっかりとした声にエリックは、自分の考えは正しかったようだと思った。
「…………強いな…」
 エリックの小さな呟きが、ガスマスク内に響く。アルファは自分と違って、相手に感情移入するタチだと、エリックは読んでいた。エリックは他人の死に関心を持たないようにしているが、アルファは死を正面から受け止めて、その上で乗り越えている。エリックが呟いたのは、そういう事だ。ナビアに居た頃からずっと自分より強く在り続けているアルファに対して、エリックは羨望と嫉妬がまた一層、内に募るのを感じた。
「え、何か言いました?」
「気にするな、なんでも……?」
エリックが誤魔化そうとした、その時。電子音が、ガスマスク内に響いた。携帯通信機が何かの信号をキャッチしたのだ。
 きちんと深部ネット用に深化された通信なら、それ相応の機材を持たなければ発信を確認する事さえできない。という事は、深化する時間も惜しむ程に急いで発信されたか、外部にキャッチしてもらう事を前提に発信しているという事になる。生憎とエリックの携帯通信機が解読できる信号ではないようで、通信機のディスプレイには意味不明な文字と記号の羅列があるだけだ。エリックの通信機の型が古いからか、それとも暗号化がしてあるのかは判らない。しかし暗号化をかけるなら、先ずは深化を先にかける筈だ。
「……何かの信号を確認した。救難信号かも知れない」
「本当ですか? だとしたら早く助けないと……」
 今になって信号を確認したのは、電波障害が収まった所為かも知れない。そうエリックは見当を付ける。だとしたらアルファの言う通り、早急に救助する必要があった。
「発信地は…………まさか、この中か……?」
 発信源は地下。ムカデが突き通した下水道と思しき地下空洞に繋がっているようだった。こんな場所から何故とも思うが、死の粉を逃れて地下水道に逃げ込んだ可能性もあるし、実は下水道ではなく地下シェルターの通路という可能性もあるのだ。
「……様子を見てくる、送信した場所で待ってろ。遅くなるようなら置いて行け」
 暫し逡巡してアルファに告げると、エリックはホルスターから拳銃を抜く。
「あ、ちょっと待っ……」
 何か言おうとするアルファに構わず、エリックはアルファとの通信を切断。ぽっかりと口を覗かせた地下空間に続く、瓦礫でできたスロープを下り始めた。


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