『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-112
「……やっぱり無理か…」
とうとう諦めかけるエリック。それでもムカデの足に踏み潰される気は起こらず、再び振り下ろされる足をかわした。相手は焦れる様子も無く、同じように足を振り上げ、地面に突き立てる。続けていればいずれ自分が動けなくなる事は判っていても、今はこれ以外に方法がない。徐々に重たくなっていく手足に、エリックはじりじりと迫る限界を感じる。落ち着いた状況なら走馬灯のように蘇る思い出も拝めるのかも知れないが、とりあえず今のエリックにはそんな余裕もない。
そして再びムカデの足が振り下ろされた。瞬間、地面に走る亀裂。ムカデの加えた度重なる衝撃に道路が耐えられなかったのか、ムカデの足が下水道らしき空間まで突き抜けた。計算外の事だったのだろう、体勢を崩したムカデの体が、ベルゼビュールの上に覆いかぶさるように落ちてくる。それをエリックは、なんとかバックステップでかわす。
「!?」
途端、モニターいっぱいに映りこむムカデの頭部。ベルゼビュールの目と鼻の位置に、ムカデの砲門が口を開けている。
「っっ!!」
現状を把握しようと頭が働く前に、生き残ろうとする本能がエリックの指に力を込めていた。ベルゼビュールのマシンガンが、怒号の如き銃声と共に弾丸を吐き出す。
「っっぁああああああああっっ!!」
いつしかエリック自身も悲鳴に似た怒号を上げながら、レバーグローブの中の指にあらん限りの力を込める。銃弾はムカデの砲門を直撃し、無数に並んだ銃身をひしゃげさせ、更に内部まで潜り込んで行く。
閃光が閃いたのと、マシンガンの銃撃を逃れたいくつかの銃身が一斉に火を吹いたのと、どちらが先だったか。
ほぼ同時に。砲門の暴発と引火によってムカデの頭が爆発し、至近距離で銃撃と爆発を喰らったベルゼビュールは吹き飛ばされた。