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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-111

無人機をあしらっているベルゼビュールに向けて、ムカデが口にあたる部分の砲門を開く。ベルゼビュールとの間に存在する無人機群など、お構い無しである。
「そうくるか……っ!」
 先ほど大型無人機を盾にした際に、ムカデによる一斉銃撃の威力は思い知っている。当たればボディが潰れるどころか、コクピットに風がよく通るようになるに違いない。かといって、この路地の幅では横に回避し続けるのも難しいだろう。ならば距離を活かして逃げるまでだ。
決断したエリックはその場でベルゼビュールを素早く反転させ、バックモニタで後ろを確認しながら全速力で走り出す。イオンブースタの推力を乗せたベルゼビュールの疾駆に、無人機群がついて来られる筈もなく。すぐに距離は離れ、同時にムカデの砲撃が始まる。まるで吹き散らすかのように通常の無人機が吹っ飛び、大型の無人機も数瞬で沈黙する。
 敵ながら哀れを誘うその光景の向こうで、小さくムカデが見えた。さすがに追っては来られないだろうと踏んでいたエリックだったが。
その胴体に並ぶ無数の足が、次々と波打つように動いた。
刹那。凄まじいまでの勢いで、ムカデが加速した。
「な……っ!」
 その勢いに唖然としかけたエリックだったが、慌てて止まりかけた足を動かす。しかしムカデの速度は、イオンブースターを使用したベルゼビュールの速度すら凌いでいた。無人機の残骸を吹っ飛ばしながら、ムカデはあっという間にベルゼビュールのすぐ後ろまで迫った。バックモニタに映るムカデの口が、再び砲門を開く。さすがにアレを喰らう訳にはいかないので横に跳んで避けようと、エリックは左ペダルを緩めた。ペダル操作を受けて、ベルゼビュールが右足に自重を乗せたその瞬間。
「ぐあ…っっ!?」
 コクピットに激しい衝撃。続いて一瞬の浮遊感から、再び痛烈な衝撃。何が起こったのか一瞬判断しかねたエリックだったが。レバーグローブやペダルのフィードバック(機体の姿勢に応じてレバーグローブやペダルが動く事によって、操縦者が機体の感覚をある程度感じる事のできる現象)と、モニタに映るやけに低い視点から、状況を分析する。恐らく一瞬立ち止まった際に、後ろから追いかけてきたムカデに撥ね飛ばされたのだろう。ベルゼビュールは吹っ飛ばされ、地面に這いつくばっている格好だ。
「踏み潰されなかっただけマシか……?」
 半ばやけくそ気味に言いながら、エリックはベルゼビュールの頭をムカデに向ける。ムカデはベルゼビュールから少し離れた所で白い粉煙を上げながら立ち止まり、長い身体をくねらせて振り返る所だった。相手が再び攻撃態勢に入る前にと、ベルゼビュールを起こすエリック。これだけの衝撃を受けても支障なく動くベルゼビュールは、間違いなく名機なのだろう。
 だが今は動くだけでは何もならず、ムカデをどうにかしなければならないのだ。他の無人機群はムカデが一掃してしまったが、どちらかというと他の無人機群を相手にした方が楽そうだと、エリックは思う。
倒す方法も無い、逃げられもしないでは、完全に手詰まりなのだ。
「…………やれやれ……」
 どうしたものかとエリックが思案を練っている間に、ムカデが再び攻撃態勢に入る。
逃げ切れない、横には避け続けられないとなれば、とる行動は一つだった。エリックは思考を中断して、ムカデの懐へと飛び込んだ。それを見て取ったムカデは開きかけた砲門を閉じ、前足を振り上げる。地面に突き立つ足を辛うじてかわしながら、この難敵を倒す方法を考えるエリック。
まず思いつくのは、開いた砲門への攻撃。良い案に思えるが、砲門は正面以外からは攻撃を通さないように囲いが付いている。正面から銃弾を撃ち込んだ所で、あの激しい銃撃では砲門に到達する前に銃弾が弾かれるだろう。連射後の砲門冷却中に攻撃するにも、前提となる連射を避けるという行為自体がこの路地では不可能だ。


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